業務連絡008 Re:謝罪文


 
Subject:[業務連絡]Re:謝罪文
To:加藤
Fm:安達


いま、報告を読み終えたところだ。
まさかとは思ったが、
まんまとやられてしまったんだな。


とうか、加藤。
長い。
長すぎるよ。


報告は明瞭簡潔に。
ビジネスマンの基本だろ?


まあいい。


さっき、書類を整理してたら、
加藤の履歴書が見つかってな。


自己PR欄に、
「自分のために頑張ります」
って書いてあったよ。


面接でオレが、
「会社のためには頑張ってくれないの?」
って聞いたらお前、


「自分のために頑張るということは、つまり、
 自分を成長させることであって、
 その成長は会社にとって有益なのですから、
 結果的には会社のために頑張ることと同じです。」
って、答えたんだよな。


いま思うと、分かるような分かんないような答えだけども、
そのときはオレも社長も妙に感心しちゃってな。
なんか面白いから採用してみるか、って。


あれから、7年にもなるのか。



 
くどいようだけど、
報告は明瞭簡潔に。
いいか、次の報告からは手短に頼む。


あとな、
パソコンの調子が悪くて、
これから再インストールするんだけど、
バックアップのやり方が分かんなくて、
大切なブックマークとかメールとか、
全部消えちゃうんだよな。


だから、
お前のメールになんて書いてあったのか、
忘れてしまうと思う。すまん。


もし、
本当に大事な用件だったら、
もう一度メールくれ。


だからまあ、
月曜は遅刻するなよ。




 
あ、
それとな、
メールの署名だけど、
カッコイイやつ出来たんだ。
見て感想くれないか。
良かったら、本採用するから。





 
**********************************************
**********************************************
**********************************************
**********************************************
**********************************************
***************(株)ラブ・テクノス*****************
****************専務  安達 義輝****************
*******E-mail:a_teruyoshi@love-technos.co.jp*******
**********************************************
**********************************************
**********************************************
**********************************************
**********************************************

 

業務連絡007 謝罪文


Subject:[業務連絡]謝罪文
To:安達専務
Fm:加藤


専務に合わせる顔がありません。
わたくし加藤は沢田様との話し合いで、
重大なミスを犯してしまいました。


専務から、
用心するようにとアドバイスされていたにも関わらずです。


言い訳するつもりは毛頭ありません。
ただ、後進への指導材料として、
事の顛末を記させてください。


***


夕焼けが後光のように照らし、
その豪邸感を際立たせた沢田邸。
これまで何度、足を運んだことでしょう。


案内された居間に入って驚いたのは、
いつもの絢爛さがすっかりと失せていたことでした。


調度品は14インチのテレビとちゃぶ台のみ。
しかも、そのちゃぶ台には、
ホッケと青菜のおひたしと冷や奴、ビールが一本。
それに、白米とみそ汁が三人分配置されていたのです。
沢田と夫人、そして私の分なのでしょう。


その部屋にあるものすべてが、
取って付けたような質素さでした。


三人でちゃぶ台を囲むと、
デヴィ夫人に酷似した沢田夫人の羽織る割烹着の白が
まばゆいハレーションを起こし、
沢田のスキンヘッドが反射する裸電球のオレンジが
夕日のような眩しさで照らしてきます。


そして、私を一番不快にさせたのは、
しかめ面しか見せたことのない二人が、
始終、笑みを浮かべていることでした。


「さささ、カトーさん、召し上がってくださいよ」
「遠慮なさらないで」
「お口に合わないかもしれないですけど・・・」


おそらく、
清貧な庶民派というアピールを兼ねた懐柔策なのでしょう。
鳩尾の辺りから粘っこい怒りが沸々とわいてきます。


「カトーさん、どうですか? 一杯」
無言のまま手で遮ると、
目を合わせ首をかしげる二人。


普段はお茶も出さない彼らの行動のひとつひとつが、
そして、ものの言い方がいちいち癇に触れてくるのです。


「カトーさんには申し訳ないけど、ボク、一杯だけ頂いちゃおうかナ」
沢田はそう言ってグビリと飲み干すと、
ぷふーと息を吐き、大きなため息をつきました。


「・・・ところで例の件だけど」


私は確信していました。
ため息の次に来るのは、このセリフだと。
相当な金額を吹っかけてくるに違いないと。


と同時に、
仕掛けるならこの瞬間しかない。
そう確信していました。


彼が口を開いた途端に、あらん限りの力でちゃぶ台を叩き、
飛び跳ねる食器でもってびびらせ、戦意を喪失させる。
古典的な方法とはいえ、ここで機先を制しなければ相手の思う壺です。


一秒を百分割したようなコマ送りの時間の中で、
全神経を彼の唇の形状、ただ一点へと集中させます。


思った通り、
彼の唇がすぼまり始め、


「・・・と」


の発音を確認した瞬間、
私はすかさず拳を大きく振り上げました。
空中で制止する拳。


あとは振り下ろすのみ。
歯ぎしりするほど奥歯を強く噛みしめ、
拳を下方に向けたその瞬間のことでした。
ちゃぶ台がキラリと光って見えたのです。


その光の正体を、
これまでの人生経験に照らし合わせた結果、
あるひとつの答えが弾き出されました。


・・・このちゃぶ台、木じゃない。
このちゃぶ台の素材は、木とかじゃない。
これは、
この輝きは、
そう、
 
大理石か何かだ。

 
しかし時すでに遅し。
振り下ろされた右手を止める術はありません。


私は、スローモーションに見える拳を眺めながら
無常を感じていました。


何も起こらない。
茶碗が飛び跳ねることも、
大きな音を立てることも。


私が振り下ろしたこの拳は、
この空間の何ひとつをも変えることが出来ない。
そう、何ひとつとして。







 
ぺち。


すべてのエネルギーを吸収した、
ちゃぶ台という名の大理石は、
湿った効果音だけを口にして、
顔色ひとつ変えず、どっしりと佇んでいます。


猛烈な手の痛み。
静まりかえる卓上。


ああ、やはり何も起こらないのですか。
ですが神様、このままではあまりにも不様です。
どうか、どうにか、力をお貸しください。


さあ、今からでも遅くはない。
だから、跳ねろ! 茶碗よ!


・・・・・・。


右手を握りしめて念じても、
手の痛みと静寂が増すばかり。


ああ、もう、
何もかもが終わりなのだ。


目を伏せ、諦めかけたときです。
卓上で何かが動くのを、視界の端に感じたのです。


強く念じれば叶うこともあるんだ。
心の拳を握りしめ、目を上げ確認するとそれは、
みそ汁の椀でした。


そしてその椀は、
「食卓のハイドロプレーニング現象」によって、
こちらへ向かって音もなくすーっと、
真っ直ぐにすべって来ているのです。


「アッ!」


私は、両手でちゃぶ台の瀬戸際に壁を作り、
あわやのところでみそ汁を食い止めました。


ふう、
・・・・・・助かった。
という安堵から一瞬で我に返ると、
入れ替わりで強烈な羞恥心が襲いかかって来ました。


勢い込んで振り上げたはずなの拳が、
か細い声を上げつつ、みそ汁を食い止めることになろうとは。
ああ、耳が、顔が、体中が、熱い。


これは罠だったのです。


もし、みそ汁が滑るところまでが計算ずくだったと考えると、
常軌を逸していて、到底、私の敵う相手ではありません。


そんな相手は、
目を伏せる私を眺めながら笑っているのでしょう。
肩を揺らして笑っているのでしょう。


ですから私は、顔を上げることが出来ず、
彼の差し出す800万円上乗せの契約書に、
黙ってサインするのがやっとだったのです。


私は完全に負けました。
打ちのめされました。
しばらく立ち直れそうにありません。
後日、辞表を提出しに伺います。


本当に、申し訳ありませんでした。


以上


★☆∵∴☆★∴∵★☆∵∴☆★∴∵★☆∵∴☆★
∵     (株)ラブ・テクノス     ∵
∴    加藤 光郎 kato mitsuro     ∴
★ ☆ E-mail:k_mitsuro@love-technos.co.jp
☆∴☆★∴∵★☆∵∴☆★∵∴★☆∵∴☆★∵∴


 
参考リンク:
ハイドロプレーニング現象

業務連絡006 休日のドライブ


 
Subject:[業務連絡]休日のドライブ
To:安達専務
Fm:栗田ゆうこ


専務、おはようございます。栗田です。
お忙しいところ申し訳ありませんが、
掲題の件につきましてご報告させていただきます。


***


目覚めると、
天気の良い日曜日でしたので、
ドライブに出掛けたくなりました。


主人は乗り気ではないようでしたが、
お昼ご飯は吉野屋の並にしましょうね、
と提案すると、
しぶしぶ顔で口元をゆるませました。


士郎はホラ、例の、究極のアレの担当ですから、
美味しいものには、めっぽう弱いの。うふふ。


さあ、出発進行~!!
って、ちょっと待って、士郎!
あそこに立ってるのお巡りさんじゃない?


police01


士郎、免許証持ってる?
シートベルトしてるわよね?
昨日のお酒は残ってない?
ね、ね、だいじょうぶ???
って、あれ?



 
police02


なあんだ、人形じゃないの、
まったくびっくりさせないでほしいわ。
でも、なんだか・・・、




薄気味悪いわ。
police03
あの目は一体、
何を捉えているのかしら?


え? なに?
アタマアタマ・・・って、士郎、
どうしてそんなに取り乱しているの?



きゃあ!
後頭部が、後頭部が・・・
police04


吹っ飛んでるじゃない!
police05
何をばんそうこう貼ってるのよ、鼻に。
やんちゃ感を出したいの?
まったくもう、
そこじゃないでしょ、
後ろ! 後ろ!



police06



ほんと一体なんなのかしら。
乱暴な運転をすると、
こうなるゾ!
ということを、
身をもって伝えているのかしら。



ねえ、士郎。
わたし、気分が悪くなってきたわ。
お家に帰りましょう。


え? 牛丼はどうなるのかって?
もう、そんなにへそ曲げないでよ。


どうしても食べたいなら、
お持ち帰りで買ってきてくれないかしら。
わたしの分は買わなくていいわ。


いまは、うどんくらいしか食べる気がしないの。


***


これが、ゆう子のオフでしたっ☆
まったくもう、散々だったわ。



☆* ゜   *
    ⌒   ⌒ ☆* ゜ + *
 ⌒ *  ⌒ + ・ *・ ・ *   栗田 ゆう子
 + 大 ・. *。" ・ * ☆* ゜ + yuko kurita
         ・ ・ + *。"
 + ・ *."П ." *". * ・ . ・ *(株)ラブ・テクノス
   __∥ * ・ /\/\ ・ ゜*★ ゜*★ ゜*★ ゜*★ ゜*★
  /\ _\ ・ / \ \ ・ y_kurita@love-technos.co.jp


+++


Subject:Re:[業務連絡]休日のドライブ
To:ゆう子くん
Fm:安達


いや、なんていうか、
ゆう子くんに限った話じゃなくて、
うすうす気付いてたんだけど、
業務連絡じゃないよね、
完全にプライベート報告だよね


安達
 

業務連絡005 やさしさ


 
Subject:[業務連絡] やさしさ
To:安達専務
Fm:まとはずれ

安達専務、お仕事お疲れさまでございます。
短期アルバイトのまとはずれです。

掲題の件につきまして、ご連絡申し上げます。

***

空が茜色に染まりつつある夕刻、
TSUTAYAへ本を買いにゆくために、
駐車場へと向かうと、
タイヤの泥よけに、
カエルが貼りついていました。

frog

それは、
ちいさなちいさなカエルでした。

とっても可愛かったので、
わたしは両手でほおづえをつき、
しばらく眺めていたんです。

そうしているうちに、
大粒のにわか雨が、
空から降ってきました。

いけない。
もう行くからね。

わたしは、
たくさんの車が走るアスファルトの上に、
振り落とされて迷子にならないよう、
ちいさなカエルを泥よけからそっと外し、
白くて黄色い花の、その葉っぱの上に、
ちょこんと乗せてあげました。

ちいさなカエルは、
車のエンジンをかけてから、
駐車場を出てゆくまで、
ちいさな葉っぱの上から、
置いていくの?
と言いたげに、
いつまでもこっちを見ていたのでした。

***

ここ最近の記事で、
みなさんの「引き」具合が、
手に取るように感じられます。

ですから、
品性を疑われても仕方ないのですが、
ほんとうは、
やさしい視点も持っているんですよ、
ロマンチストなんですよ。

と言いたくて記事にしました。
やさしさ紙芝居を見せたかったんです。

専務なら、分かってくれますよね?

以上。

まとはずれ

+++

Subject:Re:[業務連絡] やさしさ
To:まとはずれ
Fm:安達

こんな、
間に合わせのやさしさじゃ、
なんも分かんないよ。

安達

業務連絡004 マーケティングリサーチ


 
Subject:[業務連絡]マーケティングリサーチ
To:加藤 千葉 栗田 岡星 富井
Fm:安達


社員各位へ


あつかれさん安達です。


簡単なマーケティングリサーチをしたいので、
質問に答えてくれるかな?


***


あなたはいま、
砂漠に立っています。
強烈な太陽光線が肌を熱く焼いています。
もちろん日陰などありません。
し烈猛烈な暑さです。


あなたは、激烈に喉が渇きました。
とにかく、痛烈に水が飲みたいです。


だけど、水は持っていません。
オアシスの気配も感じられません。
見渡す限り、砂の世界です。
どの方角へ向かったらよいのか、
それすら分かりません。


もう、喉が渇きすぎて気が狂いそうです。


あなたは途方に暮れて、砂の上へ寝ころびました。
このまま干からびて死ぬのを待つしかないのか・・・。
そう、覚悟を決めたその時です。


そこになんと、
水瓶を抱えた天使がひらひらと降りてきました。


そしてあなたに尋ねます。
「ね、ね、ここに水、あるけど、飲む?」


あなたは無言でブンブンと頷づき、
水瓶を奪うようにして抱え、
いままさに口をつけようとしたその時、
天使は言いました。


「あのね、あのね、その水瓶の水ね、
雨の日の満員電車の車内に結露した水だけをね、
丁寧に丁寧に集めた水なんだよ」


***


さあ、どうかな。
飲める? 飲めない?



安達