それゆけ! 柔肌ポリス


 柔肌ポリスが今日もまた、あなたの町をパトロールします。
 徒歩です。普段の柔肌ポリスは、自家用車、自転車のどちらかを使って移動するのでほとんど歩きません。お隣の永田さん宅へ回覧板を届けるのも自家用車に乗って、庭の洗濯物を取り込むのにも自転車を漕いで移動し、2階から1階へ降りるのも自転車を使って降りますが、さすがに1階から2階へは自転車を担いで歩くようです。

 巡査長に「ちょっとお前、それはどうなんだ?」と指摘され、試しに丸一日カウントしてみたらたったの12歩でした。「ほら、だからこーんなに細くなっちゃうんだよ」巡査長は、柔肌ポリスの太ももをさすりながら上目遣いで言いました。

 吹く風は冷たいけれど、青い空を見上げながらのパトロール。巡査長にもらった万歩計が腰のあたりで揺れています。向こうから、黒木瞳に似た奥さんがスピッツを抱きかかえてやって来ました。「こんにちは、いい天気のようですね!」柔肌ポリスが声を掛けるとキラキラの微笑みを返してきました。とてもいいにおいがします。話を長引かせるためにイヌを褒めちぎり「かっわいいですねぇ~」と手を伸ばすや否や「キャン!」と甲高く吠えつけられてしまいました。

 変な下心が読まれたのでしょうか? いいえ。たぶんそれもなくはないですが、おそらくは柔肌ポリスの、その肌の白さにビックリして吠えたのです。どれくらい白いのかと言えば、流行りの洗濯用洗剤で洗ったみたいに真っ白でした。長身で長髪であることから高見沢俊彦を彷彿とさせる白さで、かつ、柔軟剤を使ったかのような肌触りの肌でした。しかしながら若干、生乾きのような、ん? なんか今、いや、気のせいか。といった感じの、なんらかの拍子で鼻先に漂って来て、そして消えてゆくような、そんなにおいがしました。

 ぐぐう。柔肌ポリスはすぐにお腹が空きます。今日は歩きなのでなおさらです。定食屋のカウンターでスポニチを手に取り、いつものテーブルへと向かいながら「D煮定食!」と不機嫌そうに注文をしました。D煮とは、店の主人が『豚肉のコーラ煮』にインスパイヤされて作った『豚肉のリポビタンD煮』のことを指します。柔肌ポリスは、その、ケミカルな味付けの虜になっていましたが、店の主人に対してしぶしぶ仕方なくといった素振りを見せ、ゆっくりと平らげるのが常でした。

 定食屋の帰り道で、黒木瞳に似た奥さんとの再会を果たしました。なるたけ遠くから声を掛けたのは、スピッツを刺激しないためと、リポDの口臭による「いったいなんのためのスタミナ?」といった類のおかしな勘繰りをさせないためだったのですが、奥さんの腕から勢いよく飛び降りたスピッツは、柔肌ポリスの足元でキャンキャンと吠え続けました。

「ワシ、なんもしてへんやんけ」両手を挙げて立ちすくむ柔肌ポリス。エセ関西弁を責め立てるかのように吠えるスピッツ。耳がつんざけそうです。「ごめんごめん、あおもり、青森、出身は青森!」スピッツは、まるで噛みつかんばかりの勢いで吠え続けています。「アオ、青森、青森県は、む、むつ市の出身です!」

 きゅぅん。
 柔肌ポリスのカミングアウトを察知したスピッツは、大人しく奥さんの腕の中へと帰ってゆきました。柔肌ポリスの顔面は、息をぜいぜいさせて交番に辿り着いてもなお蒼白のままでしたが、幸いその変化を悟られることはありませんでした。しかし、本気で体調が悪いときにも同様だったので、いいのか悪いのか分からないと柔肌ポリスは思っていました。

「ねえねえ、何歩だった?」と巡査長がすり寄ってきたので万歩計を確認すると、液晶には何も表示されておらず、よく見てみたら電源がONになっていませんでした。しかし、太ももにほどよい疲れを感じていて、いつもより歩いているのは間違いないようです。「まあ、五十歩百歩といったところですかね」柔肌ポリスは、ウマイことを言ったようで言ってないことを言いました。

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 [google]豚肉のコーラ煮