■毛虫が道路を横断する日々。
■なぜに彼らはそんなことをするのか。道端から道端へ。いったい何があるっていうんだ、何が見えてるんだ、何をしにゆくんだ、向かいの道端に。木の幹にへばりついてりゃ難無しなのに、オマエたちがその場所から、行かなきゃならない理由はなんなんだ。
■「ねえちょっとぉ、こっちに来て楽しまなぁい?」向かいの道端で身体をくねくねさせた、いやらしいメスが誘うのだろうか。ほほん、なるほど。それなら行くかもしれない。男だったら行ってしまうだろう。いや、行く。照り返しのきついアスファルトをものともせず、なりふりかまわない蠕動運動でもって、まっすぐにゆくのだ。「なんか、誘い方が古くさい」なんてことには気付きもしないで、ひたすらにゆくのだ。
■そんなことを考えたら、大嫌いなはずの毛虫に、すこし愛着を感じた。そして、カッコいいとも思った。目的はどうであれ、向かうべき場所があるなんてオレ、うらやましいよ。そうそう、その調子。ほら、向こう側までもう少しだ。
■だけど今日もバンバン轢く。いちいち避けてたら、蛇行運転してしまうからである。毛虫の生き様など知ったこっちゃない。
■蛇行で思い出したが、少し前に、ヘビを轢いた。私が乗っていた助手席側の道端から、しゅるしゅると這い出てきて、「あっ!」と発する間もなくタイヤの餌食となった。
■轢いた瞬間、「パーン!」という音が聞こえた。パンク!? と驚いたが、運転手のEさんによれば、「ヘビを轢いたときの音」であって、重量のあるトラックで轢いた際に発生する現象なのだという。どういうメカニズムなのか知らないが、音からして破裂したのだろう。ううむ、轢かれたヘビがバーストして音を出すとは、ショッキングな事実である。
■道端の藪から、「しゅるしゅる」と出てきて、「パーン!」と轢かれる。花火かよ、オマエは打ち上げ花火かよ。
■「花火のような死に様だった」と書けば、潔い感じがしてカッコいいが、数分後、同じ道を引き返すと、さっきのヘビがぐるぐるにもつれ、のたうち回っているのが見えた。まるでネズミ花火みたいに。「生きてますよ!」と思わず叫んでしまった。「ヘビはしつこいからねえ」Eさんがひゃひゃひゃと笑う。だって、さっき、破裂したのに。どうやら、頭を轢かない限り即死はしないものらしい。しかしながら、いくらしつこいとは言っても、その余命は線香花火ほどであろうと思われる。
■いろんな花火に例えすぎて混乱している。
■気味が悪くて一瞬で目を逸らしたが、その死に際は夢にまで出てきた。それほどにインパクトある光景だったのだ。Eさんは、あっけらかんとして、聞いたことのない鼻歌を奏でながら右折する。
■梅雨が去れば、夏がやって来る。ネズミ、打ち上げ、線香花火。それぞれの、夜を彩る夏の音を聞くたびに、私は、あのヘビを思い出すことになるだろう。いつまで経っても、私の記憶の空を、のたうちまわって彩り続けるのだ。