ミスタードーナッツとパチンコ屋の間で魔女を見つけた
足首まである真っ黒なコートみたいなのを羽織ってて
そのうわっぱりの下は膝上のタイト・スカート
あたまには防空頭巾みたいなものが巻いてある
二十代かな? 石鹸の香りがひらひら寄ってくる
買ったばかりの文庫本をバサリと落としたら
ひょいと魔法で僕の手元に戻してくれたのが彼女
本が空中に浮いたので僕は驚いた のなんの
二コリと笑って「ありがとう」と彼女はのたまった
「どういたしまして」と僕もつられてのたまった
逆でしょ逆でしょ 逆だよね?
彼女は棒切れみたいな杖をひょいひょい振ってる
せっかちな指揮者みたいにちょこまか振ってる
ほっぺたが うすらピンクに染まってる ははあ照れかくし
何か こまって いることは なあい?
杖はひょいひょいから びゅんびゅんになっていた
あぶないあぶない あぶねえよ ってば
鼻先をかすめる危険な杖をよけながら 僕は答える
瞳孔を覗き込んで ゆっくりと僕は答える
きみの なまえを おしえてよ
彼女はうつむきながら小さく答える
それを 言ったら 怒られちゃうの
杖はびゅんびゅんから キーンになっていた
あちらこちらで犬が吠えだした
あちらこちらに魔女の超音波が届いたのだろう