ロックンロール日記


 ほぼ直線のみの通勤路に飽きて別ルートで帰る。全部の窓を全開にして、ただただ広いだけの農道へと折れ、Tシャツをはためかせる夕風に体温を奪われながらひたすら車を走らせた。対向車も後続車も見えない時速65キロ。「チン、コッ!」言葉のチョイスに意味なんてない。大声を出してみたかった、ただそれだけのこと。すうう、と大きく深呼吸をした瞬間、むせ返るほどの堆肥臭があっという間に車内を制圧した。これが、俺が住む町の現実。だからといってあたふたと窓を閉めたりはしない。車内をがむしゃらに暴れ回る芳香にまみれながら、何事も無かったかのように、しっかりと受け止めるようにして、ただただ走り抜けた。ロックンロール。

 コンビニで43円のお釣りをもらった。1円足りない。「あの、1円足りないんですけど」手のひらの小銭をそっくりそのまま差し出しながらぶっきらぼうな口をきく。たった1円だろうが、足りないものは足りないに相違ない。「失礼致しました」メガネでハタチの店員が1円玉を43円の上にカチリと落とす。「ありがとう」俺はそう言ってすかさず手のひらの44円を募金箱へザラザラと流し込みレジに背を向ける。なんの募金かなんて知らない。膨らむサイフが嫌いなだけの、俺は偽善者なんだ。ロックンロール。

 街を歩きながら熱い屁をした。どうやら間違えてしまったらしい。足をくじいたような歩き方でデパートのトイレに立てこもり、ウォシュレットでじっくり時間をかけて清潔にしてから、丸めたトランクスをゴミ箱へ投げ入れた。ぐわんぐわんと回って揺れるゴミ箱。俺は振り返りもせず街へと飛び出した。そして、下半身に風を感じながら駅までの道をどこまでも歩いたんだ。ロックンロール。

 カシュ。ホチキスの芯切れ。たまに使えばこのザマだ。トイレットペーパーだってそうだし、コピー機だって用紙切れ。今にして思えば交換ばかりしている。俺は生まれながらの交換手なのかもしれない。こうなったら、なんだって交換してやる。タイヤだってオイルだって電池だって日記だってタンポンだって、なんだって交換してやるんだ。ホチキスの芯をもらいに総務へ行くと、スナック菓子の袋を開けてほしいと頼まれた。10時のおやつ。ホチキス欲をくじかれ焦れつつオーザックの袋を引っ張る。これは、なんて手強い。ぬ、ぬぉっ!!! 掛け声とともに噴火するオーザック。そのサクサクした物体はスローモーションのように天井高くまで舞い上がり、そして白い花びらのように体に降り注いだ。そのとき俺はなんだか、祝福された気分になっていたんだ。ホチキス、オーザック、ロックンロール。