七三日記(0824)


 
■夏が終わってしまった。
■何をセンチメンタルな。と思うかもしれないが、夏生まれに見えない男グランプリ東北ブロックベスト16の夏生まれで夏大好き男の私が言うのだからちょっとは許して欲しい。
■何もない夏だった。海に行ってない、花火もしてない、ビアガーデンも行ってない、かき氷もすすってないし、なんのアバンチュールにも出会ってない。ただただ暑いだけの不甲斐ない夏。そんな夏に更新した文章を読み返してみると、これ、脳が沸騰してるというか、熱暴走というか。なんだか申し訳ない気分になった。
■何もない夏の締めくくりとして、中年男女の暑苦しい夏物語を書こうと思った。「純文学」などと大見得切ったサブタイトルまでつけたのだが、うまく書けなかった。


■ああ、本当に何もない。なんかしらあるだろうと思うのだがまるっきりゼロだ。あ、でもこんなことならあった。


■駅前を歩いていたら、背後から小さな女の子がタタタと走ってきて私の前方で振り返り「あっかんべー」をした。よもや自分に向けられているとは思わずキョロキョロ辺りを伺ったのだが、それらしき対象人物はいない。とりあえず私は女の子へ向かって中指を立てた。どうせ意味など分かるまい。それを見た女の子は再び走り出し、数メートル先でまた振り返って「あっかんべー」をした。中指を立てようと思ったら女の子はすでにどこかへ走り去って見えなくなってしまった。
■小さな女の子との小さなゆきずりだった。なんだかよく分からないがそう思った。どうせなら、おとなの女の子とゆきずりたかった。でもゆきずれなかった。……ああ、そういや、こんなこともあったっけ。


■運転手のWさんが「あっ」と指差す先を見ると、道路の真ん中で子犬がのたうち回っていた。さっきすれ違ったばかりのトラックが脳裏に浮かぶ。きっと轢かれたのだろう。ショッキングな光景に耐えきれず目を覆った。しかし、車を止めたWさんの「あれ?」に顔を上げてみると子犬はぴんぴんしていた。それどころか私たちに向かって「ワン!」と敵意のひと吠えまでしてみせた。結局の所、子犬は轢かれてのたうち回っていたのではなく、ぺしゃんこに干からびたヘビの死骸にじゃれていただけだったのだ。無邪気に。
■ちゃんと繋いでおけ。飼い主にそう言いたい。伝えたい。言付けしたい。伝言ゲームで伝えたい。矢文を射りたい。あ、そうそう、その帰りにガソリンスタンドで給油したときのこと。


■ものすごく丁寧な店員に出会った。「満タンでよろしいですか?」「吸い殻、ゴミなどございませんか?」などと丁寧な言葉使いで嫌み過ぎない笑顔の接客。見れば「見習い中」の腕章。ふてぶてしい態度の見習い店員が多いなか、久々に「ええやん」と感じた見所のある好青年だったのだが、帰り際に帽子を脱ぎデタラメな方向へ視線を向け、「あるつぉあーす!(ありがとうございます)」と言った。
■なんだよそれ。やけっぱちじゃねえかよ。最後で気を緩めるなら最初から緩んどいてほしいものだ。あ、あ、んだんだ、ガソリンスタンドついでに思い出したことがある。


■セルフのスタンドで給油していたら店員が近寄ってきて、うまい棒をくれた。めんたい味だった。「なんですか?」と聞くと「サービスです」。みんな暑さでアタマがどうかしてるんだろう。とりあえず、小さい声で「あるつぉあーす」と言ってみた。
■窓全開でうまい棒をかじりながら夕暮れの道路を飛ばしたら、夏の終わりの匂いがした。センチメンタルな気分に酔っていたら、匂いがどんどん強くなってきた。夏の終わりじゃなくて堆肥の匂いだった。急いで窓を閉めた。なんだかなあ、で夏が終わった。