スレスレ違いの路上


 閑散とした住宅街で業務遂行上やむなく路上駐車をしていたら、向こうからセダンって言うんですか? いわゆる一般的な車が近づいてきて、私の車の手前で止まったんです。運転手はコロッとした体型で大仏パーマっぽいのをあてた、いわゆる典型的な「ニッポンのおっかつぁん」だったんですけど、見渡せる限りの路上には私とおっかつぁんの車しかいなくて立ち往生する理由がないんです。だから私としても対処のしようがなかったんですが、ハンドルを握ったまま進行方向を真っ直ぐに捉えるおっかつぁんの視線から察するに、どうやら私の車とすれ違えるかどうか不安なようなんです。思わず、パーに開いた左手をグーの右手でポーンと叩いちゃいました。なーんだなるほどなるほどそういうことだったのか!

 って、おっかつぁん!
 どっからどう見ても通れる道幅で、スカスカっていうかガバガバっていうか、逆に接触するほうが難しいくらいの道幅だから、「大丈夫、行けますよ」っていう合図をしてもおっかつぁんは1ミリも動こうとしないし、ハンドルをがっちり握ったまま固まってるんです。メデューサによって石にされてるの? って思うくらいピクリともしないんです。埒が明かないので、私の車が前進して無事すれ違ったんですが、無意味な前進をさせられてどうにも釈然としませんでした。

 考えてみるとおっかつぁんてのは、自転車でも同じようなことをしますね。
 歩道を自転車同士ですれ違うことが怖いのか、超音波みたいなブレーキを鳴らして自転車を降りてしまうので、その体の分だけ歩道のスペースが狭くなってしまい、結果、対向の人も自転車を降りざるを得なくなるというのが、その事例のひとつです。だけどまあ、すれ違い能力の低下というのは老化に伴うものであって、致し方ないと思っております。

 それよりも聞いてください、自転車には苦い思い出があるんです。
 歩道を歩いていると「キャー、どいてくださーい!!!」という声がして、ハンドルをわなわな震わせた自転車が向こうからやってきたんです。その自転車の女性はとても太っていて転倒の恐れがあるため止まることが許されないようで、暴走機関車か、映画「スピード」に出てくるバスかなにかみたいに、道を空けるようにと懇願しながら走ってきたのですが、私がその叫びを聞いて目を上げたときにはすでに目と鼻の先の距離にいて、かといって歩道は逃げ場がないほど狭く、反射的に車道側へ避けたのですが、まあ状況としては、トップロープをさっそうと飛び越えてリングインするつもりがしくじって、ロープを軸にくるんと回転しながらリングに落ちてしまったレスラーの迷珍場面みたいに、私はガードレールを軸にくるんと車道へ転落してしまったんです。これで車に轢かれていたら迷珍場面の騒ぎじゃないわけで、目をバッテンにしてグーの右手を振りかざしながら頬を膨らませてコラー!! と自転車の女性に注意をしたのですが、道なき道を行くようにいろいろな人をなぎ倒しながら消えて行きました。今でも、うなされることがあります。