『半』のボーダーライン


 
 手際の悪い運転手だった。
 荷物を載せたいのだと伝え、トランク前で待っていたが一向に開かない。どうしたのだろうと運転手を見ると、慌ててボンネットを閉めている。新人のリストラ転職ドライバーなのだろう。丸く分厚いメガネを掛けたその男性は、オロナミンCの看板で微笑む大村崑によく似ていた。親近感を覚える顔ではあるが、あたふたと動きだけは忙しそうな仕事ぶりには閉口した。「頼むよ、崑ちゃん」という台詞が舌先で待機する。やっとのことで荷物を積み終えた。


 崑が車に乗り込み運転席のドアを閉める。バフンと音がした。
 崑は再びドアを開け、そして閉めた。バン!と鋭い音がする。
 半ドアだったのである。説明するまでもないが、閉まりきっていないドアのことだ。


 何気ない光景だが、これって実はすごい事なのではないか。ドアを閉めた際の音、もしくは力加減で、「半」であると判断したのである。車には、ルームランプを点灯させ、半ドアであることをアピールする機能があるが、崑はそれを使わずに半を悟ったのである。私は、崑に聞いてみた。


「今の半ドア、どうして分かったんですか?」
「どうして、って言われ……んー音ですかね」
「それじゃ、音で半が分かったんですね?」
「半? あ、ええ、まあそうですね」


「恵比寿までお願いします」
 車が走り出す。私は考えていた。動物は「半」を判断できるのだろうか。
例えば、通常より半分の量のエサを犬にあげたとする。犬はしっぽを振りながらエサをぺろりと平らげ、口の周りをぺろぺろ舐めながら「めちゃウマいやん、このエサ」などと考えるだろう。
 しかし気が付かないのだ。「半」であることになど、まるで気が付かないのだ。気付くのは夜中を迎えた頃で、それも、「なんや知らん、ぐうー、腹鳴っとんねん」などと、ぼんやり考えるだけだ。


 つまり、「半」を判断出来るのは、人間だけなのである。であるが、生まれつきその能力を備えている訳ではなく、経験を重ねることにより能力が身に付き、そして、重ねた経験に比例しその精度が増してゆく。


 しかしながら、世の中には様々な「半」が存在する。その全てに「半」のジャッジメントを下すことは可能なのだろうか、と考えてみる。半半半半半、半生(なま)。バックミラー越しに人生経験が長いであろう、崑に聞いてみる。


「半生はどこで分かりますか?」
「焼き具合、ですかね」
「具体的に言いますと?」
「噛み切ったレバーが、妙にジューシーだった時ですかね」


 なるほど。確かに、その断面を確認すると血がしたたっている事がある。半生は歯応えと肉汁で判断するのだそうだ。


「ステーキはミディアムレアが好きですけどね」
「へーそうですか」


 好みの焼き加減はいま関係ない。半半半半、半ズボン。崑に聞く。


「どうやって半ズボンを見分けますか?」
「膝より短いやつ、なのかなあ」
「なるほど、長さが半分になったズボンを言うんですね?」
「ええ、まあ、そうです」
「じゃあ、右が股下ゼロで、左が足首まであるのも半ズボンですか?」
「え、それは……」
「これも、長さで言えば半分ですよね」
「あ、ええと」


 この後、半ズボン、短パン、ホットパンツの違いを聞いてみたが、崑は泣きそうな顔で困り果てている。


「運転手さん、顔が半泣きですよ」
「こんなに半ズボンのことを考えたのは初めてです」


 顔つきが湿ってきたので、この質問は飛ばそう。半半半半、半殺し。聞く、


「どこまで痛めつけたら半殺しですか?」
「穏やかでない質問ですねえ」
「半殺しにしたことはありますか?」
「ないです、ないです」
「じゃあ分からないですよね」
「ええ。でも、半殺しにしたい奴はいますけど」
「じゃあ、その人をどこまで痛めつけたいですか?」
「裸にして、アロンアルファでコマネチのポーズに固定します」
「それは精神的な半殺しですね」


 理解不能だし、なんだか怖い。崑の深部を知るのが怖い。深追いせずに質問を変えた。半半半半半、半裸。ツ黴€


「どこからが半裸になりますか?」
「難しいですねえ」
「じゃあ、今から少しずつTシャツ脱ぎますから、半裸の時点でストップって言って下さい。行きますよ」
「え? あ、はい」
「どうですか?」
「まだの気がします」
「このへんですか?」
「そうですねえ、まだ……」
「そろそろかな?」
「ストップ!」


 乳首を越えたら半裸。なるほど分かりやすい。膝を打つジャッジメントである。崑の人生経験も伊達ではない。感心していると、崑が言った。


「お客さん、面白い方ですねえ。私も勉強になりました」
「じゃあ、メーター半額にして下さい」
「それは出来ません」
「そこをなんとか」
「半殺しにしますよ」
「コマネチ!」


 崑の脂ぎったメガネが、バックミラー越しに鈍くキラリと光った。ツ黴€


 

『半』のボーダーライン” への3件のコメント

  1. どもっ!!
    春の講習で久しぶりでした。

    その運転手の「半」観はおもしろいですね。
    特に半殺し。
    いまどき半殺しを、暴力抜きで語る人いないですよ。

    わさび抜きの寿司、みたいな・・・・・

    ってことは、わさび抜きの寿司は「半寿司」?
    何か違うな(笑)。

  2. >ほりまささん
     どもども。自分もなんだかんだで更新できませんでした。
     半殺しって、暴力よりも精神的に責めるほうがダメージ大きいような。
     書いてて思いました。いやいや、やる予定なんかないですけどね。
     半寿司って、半チャーハンみたいなものでしょうか。

  3. 見栄晴 ついに入籍



    見栄晴、10歳年下と入籍
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070403-00000011-oric-ent


    この人も息の長いタレントですね。まだ、40才だったとは。

    若いうちにブレイクしたから、そういう印象なんでしょう。

    いつまでもフラれ続ける、さえない男でいて欲しかったですけどね。


    緊急!ついに解禁になりました
     ↓ ↓……

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