かつて私は犬だった。


 かつて私は犬だった。野良を駈けては蝶を追い、モグラをほじって、排泄物を嗅ぎ回り、退屈しのぎに畑の老人を吠え立てた。ひもじいときはネズミやスズメを追って糊口をしのぎ、胃腸のために草を食み、沼の水で乾きをうるおすと、風に吹かれながらいつまでも眠った。

 かつて私は鳥だった。寝ぼけまなこの住宅街をかすめ飛び、山と積まれたビニールを次から次へとつついて回った。荒々しい息づかいをした2つのシルエットが、ベランダに佇む私を見て驚いている。小学生の投げる小石をかわしつつ、公園をふっと飛び立てば風はいつも向こうからやって来た。私はいつも、風に吹かれてばかりいた。

 かつて私は猫だった。塀を伝い、側溝を飛び越え、草の匂いを嗅ぎながら空地を抜け、知らない誰かに撫でられながら、どこまでもどこまでも右へ左へ知らないどこかへ歩き続けた。ペティグリーチャムを補給するための帰路もやっぱり、知らないどこかだった。そして私は、扇風機の風に吹かれながら膝の上でいつまでも眠った。

 かつて私はリモコンだった。目には見えない光で、毎日毎日数えきれないくらい番組の変更を指示した。ボタンの数字が読み取れないほどに年齢を重ねてもなお、ソファや座布団や新聞の下で「(私は)ここにいるよ」と叫び続けた。そして私はテーブルの上で、くしゃみ・ため息・寝息に吹かれてばかりいた。

 かつて私は人間だった。会社の底辺に位置し、次々と押し付けられる些事細事を、さほど嫌がらずに片付けるものの、何度もやり直しを命じられた。胃を痛めるほどの心理的負荷を解放するため、夜な夜な「おっぱい」などの文字列をまき散らしてはディスプレイ越しにニヤニヤし、ひんしゅくを買った。それでもなお愚行を止められず、読み返せば羞恥に顔を赤らめ、そして後悔に青ざめ、ああ、いっそのこと、私は貝になりたい。屋上の風に吹かれながら、そう思った。

 そして私は誰の言葉も聞かず、誰の視線も気にすることなく、固い殻に守られながら傷口を癒し、そして自分自身と向き合い続けた。どれくらいの時間が必要なのかは分からないけど、心も体も生まれ変わったなら、長く長く伸びた髪の毛で股ぐらを隠しつつ、人間として、皆さまの前に現れたい。たとえ、たとえ皆様の、冷たい視線が吹いたとしても。

生まれ変わった私を見て!

※こんなイメージです。

クラッシュログからの大切なお知らせとお願い


平素はクラッシュログ(naked)をご覧いただき誠にありがとうございます。去る、平成20年5月22日に記事の誤アップが発生いたしました。

とある人物によって書かれた「お小噺」という秀逸な記事が、計画的な手違いにより弊ブログへとアップされました。同時に私の記事が、とある人物氏のブログへとアップされてしまいました。つきましては関係者各位、特に、とある人物氏の記事を楽しみにしておられた方々に多大なるご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。なお、本件における経済的な損失は300円ほどと見られております。

また、どういった経路にてこのような計画的なミスが発生したのか、聞き取り調査による原因究明を急ぎ、再発防止に努めて参ります。

なお、私が書かせていただいた記事につきましては、前記事のBあたりを押すことによりたどり着けるやもしれません。見つけて読んだ際にはげんなりしていただくよう、ぜひともよろしくお願い申し上げます。

matohazure☆

お小噺


なんでも往来で下着を見せびらかしていた自称20代の女性が逮捕されたなんてニュースを少し前に目にしたわけですけれども、けしからんのは30代女性が20代だと年齢を偽っていたことでもなく、公衆の面前で下着を露にしたことでもなく、この前スーパーで買ったイカそうめんが全然切れてなくて、単に切れ目の入ったベローンとしたでかい刺身だったということに尽きるのでございます。さておき「下着を露に」というと、なんだか必要以上にいやらしい語感なのはこのところの暑さのせいでしょうか。そんなふうに世の中乱れに乱れておるわけでございます。

とまあ、乱れるには乱れるなりの理由があると考えるのが道理でございまして、これは種の法則とでも申しましょうか、遺伝子が持つ多様性を生むチカラといったような作用が肌理細かく世間に影響を及ぼしておるやもしれません。ひとくちに「焼肉屋」と申しましても無煙ロースターもあり七輪のような炭火もあり、果てはコスプレ焼肉などという風俗まがいのけしからん焼肉屋まで登場する始末。いくら多様化するのが宿命とはいえコスプレはない。中途パンパすぎるではないですか。いっそノーパンぐらいまで進化せねば世間様は納得しないってものでございます。

とまあ、科学的根拠に基づいて世間の乱れを認めるにしろ世の中というのは不思議なもので、氾濫が起きると淘汰が始まるんですね。増えれば減る、開けば閉じる、電球は光る、光るは親父のはげ頭、といった具合に自浄作用というか自然淘汰という法則もさもありなんでございます。乱れた世の中に品格を!作法を!と言わんばかりに、最近ではそのテの書籍やらセミナーやらが流行の兆しを見せております。また、コンプライアンスなんていうまやかしの呪文で規制に縛り付けたりする傾向もありまして、収束するチカラには猜疑的な念を抱かずにはいられないものです。

とまあ、規制や淘汰が悪いような物言いをしてしまいましたが「品格」なんてのは我々現代人が忘れがちな大事なナニカであることは間違いないわけでありまして、せいぜい人様に後ろ指を指されない程度には品格を纏いたいと思うわけでございます。手っ取り早いところでは丁寧な言葉遣いなんてのがありますが「お紅茶いかが?」なんて結構じゃありませんか。「お砂糖はおいくつ?」なんて訊かれたら思わず「お万個お願いします」なんて言ってしまいそうでございます。そして嗜み。絵画なんて良いと思いますね。芸術は心を豊かにしてくれます。

おアートがよろしいようで

サービスって、なんだろう。


 かれこれ2年以上も通っている美容室で、カットの前にアンケートを書かされました。

本日のカット担当の希望はございますか
□男性
□女性
□どちらでもよい

アシスタントの希望はございますか
□男性
□女性
□どちらでもよい
(ご希望に添えない場合がございます)

 なるほど。サービスの質を高めるためのアンケートですか。
 そりゃまあ、どっちかって言ったら女性の方がいいけど、自分の中では美容室は苦行の場であって、カットの最中は「居心地の悪さに耐える」という作業に没頭しているのでどちらでもあまり関係ありません。というか、アシスタントの希望まで聞くってのはどうなんでしょうか? そういうわけで「どちらでもよい」で。

仕上がり時間のご指定はございますか
(  時  分頃)

 忙しい人向けの設問ですね。基本的に髪を切りに行く日は後の予定を入れないことにしているので関係ありません。カットの最中に聞かれるよりはマシでしょうか。この設問は無記入で。

シャンプーの際の強さはどれくらいがよろしいですか
□しっかりとした力で
□程よい力で
□弱い力で

 なるほど、強さですか。強さ、強さね。うーん、分かんない。強さの基準が分かんないから「程よい力」で。

肩のマッサージのお好みはございますか
□強くやってもらいたい
□程よくやってもらいたい
□弱くやってもらいたい

 また強さ?? 正直、ここまでサービスのレベルをすり合わせる必要あるの? って疑問に思うんですけど。ここもまあ「程よく」で。

普段、どんな雑誌をお読みですか
(           )

 オシャレな雑誌のひとつも書いておきたいところだけど残念ながら。もし「デラべっぴん」って書いたらどういう雑誌をチョイスしてくれるのか。なんかこの設問に関してはセンスを丸裸にされそうなので無回答。どっちみちアレを読まされるわけでしょう? CUTだ、CUT、CUT持って来ーい!!

以前に、パーマ液などで湿疹等が発生したことはありますか
□ある
□ない

ご希望のカットはお決まりですか
□決まっている
□決めていない

 おっと、ようやく実用的な設問が。
 ていうかさオレってさ、ヘアスタイルに明確なビジョンを持たないっていうスタイルを突き通してるジャン? だから「どうなさいますか?」って聞かれても困っちゃうんだよねー。まあ美容師も困るんだろうけどねー。ま、だからこの設問は胸を張って「決めてない!」って言えるチャンスをオレにくれたよねー。ていうか、ていうかさ、このアンケート長くね? そろそろ終わりにしたいからサクサクって次の設問行っちゃおうぜー。

カットの際、お話ししたいですか
□話したい
□程よく話したい
□静かにしていたい

 開けよった。ついにパンドラの箱を開けよったでこの美容室は。血の巡りがカァーってなったし、全身がズゥンって感じになりましたよ。このエリアにはどんなことがあっても触れたりしないという協定が、私たちと、あなたたちの間にあったはずですよね? あからさまなデリカシー違反ですよね? そもそも、話したいのかそうでないのか、その辺りの機微を読み取るのが客商売ってもんなんじゃないですか? ここはあれですか? ゆとり美容室ですか? そうじゃないって? ふん、どうだか。そんな必死に言われてもね。

 だいたいね、こんなのがサービスのわけないじゃない。めちゃくちゃ答えづらいじゃない。静かにしてたくても「程よく話したい」につけちゃうじゃない。めちゃめちゃ気ぃ使うじゃない。客に気ぃ使わせてるじゃない。あのさ、もしさ、あなた方がサービスの質を高めたいと思ってるんだったら、こういう設問があってもいいんじゃない?

カットの際、語尾はどうしますか?
□ナリ
□ごわす
□アル

例えばこんな感じ。

「シャンプー台のほうへどうぞナリー」
「かゆい所はないでごわすか?」
「お湯加減はいいアルか?」

 サービスだねえ、すごくいいサービスだねえ。これぞサービスだよ。
 あと、こういうのもあるよ。

カットの際、合間合間にさりげなくチンコを触られたいですか?
□触られたい
□触られたくない
□程よく触られたい

 こういう設問を追加する覚悟があるなら「ゆとり美容室」発言を撤回してあげてもいいんだけど、やっぱダメ? ダメですよね? いや、あの、どうしてもダメ?

ゴールデン日記


 飲みすぎてしまい起き抜けに吐瀉物。
 小中高と縁のあった友人と久しぶりに会えたのがよっぽど楽しかったんでしょうなあ。でしょうなあ、ってのは後半の記憶がまったくなくて。

 途中、友人が女の子の友達を呼んだのですが、ノリのよい子だったので下ネタの歯止めが効かなくて、最終的に「それ、引く」みたいなことを言われた記憶が、あー、なんにも思い出したくありません。

 気がつくと隔離された部屋で薄っぺらい布団と座布団を枕にして寝ていました。畳の上で。もー体のふしぶしが痛い。で、冒頭の一行に至るというわけで。ビタ一文使いものにならない体たらくで丸一日が終わってしまいました。

ほんでもってまたもやプロフィール更新です。
http://2manji.jp/matohazure

あと、短歌も。
http://d.hatena.ne.jp/matohazure/
最近はこっちのほうが書いてて楽しいです。
よければどうぞ。ただし、過度な期待は禁物です。