WEBメールの迷惑メールを蓄積しておき、頃合いを見計らってゴッソリ消去する行為にハマっている。ちょっとした爽快感が手軽に味わえるのだ。空になった迷惑メールフォルダを眺め、しばしのあいだスッとした心持ちを堪能する。それは、我慢に我慢を重ねた大きな獲物をトイレでひと息に放出した際の、臀部付近にしばらく続く、あのスッキリ感に似ていなくもない。
通常、迷惑メールは1ヶ月経過すると自動的に消去されてしまうため、その直前に実行するのがコツ。つまり、より多くのメールを消去することによって最大限の効果が得られるというわけである。
そろそろ時期か。そう思って迷惑メールフォルダを開くと、400通ほど蓄積している。まずまずといったところか。このまま、「空にする」の文字列をクリックしてもよいのだが、それでは味気ないというか、侘び寂びがないというか、多少の情けをかけるというか、手錠をかける前にタバコを一本吸わせる刑事の気持ちで、メールの件名にざっと目を通してみる。
どうにかしてメールを開封させようと、限られた文字数の範囲内で躍起になっているのが見て取れる。悲しいものだ。このほとばしる熱量を、前向きな作業へ利用すれば、なにがしかの有益な結果が得られるのではないか。そう思いながら、「空にする」をクリックしようとして、慌ててその手を引っ込める。この件名は、なんだ。
言い直している。
「お支払いの確認」と言いかけたものの、より強迫効果の高い「最終」という単語を付与し、そして、最初から言い直している。
なんだろう。
このメールに、淡い親近感を抱いてしまうのは私だけだろうか。人間くささのようなものにつられ、開封してしまったのも私だけだろうか。そして、そのすべてが計算ずくなのでは? と気付いたのは、私だけではないはず。