会社に食いっぷりのいい同僚がいる。仮に名前を腹田、腹田俊彦としよう。
彼と牛丼を食べに行った。まず、並二丁というチョイスセンスに電流が走った。曰く、特盛り一丁よりもパフォーマンスが高いのだそうだ。小食キャラで売っている私には100パーありえない選択肢。その「ありえなオーダー」を貪るように食う、いや、喰らっている。その姿を眺めながら私は思った。ここはサバンナかと。弱肉強食の世界かと。
その一方で、「胸のすく食いっぷりやわあ」。そんな肝っ玉かあさんライクな心理にもなっていた。「おかわり言うてや!」。しゃもじ片手にスタンバっていたい。この食いっぷりをもっと眺めてたい。目を細めて微笑んでいたい。そうか! 私は気づいた。これはエンターテインメントなのだと。「金の取れる食いっぷり」なのだと。
これをなんとかショービジネスとして成立させる方法はないか。逡巡の末、バチン!脳内に閃光が走った。彼に、牛丼を食いながらテーブル間を練り歩いてもらってはどうか。ディナーショーである。「腹田俊彦ディナーショー」である。普通のディナーショーはタレントの歌や踊りを鑑賞しつつ客が食事をとる。が、「腹田俊彦ディナーショー」は彼自身が食事を取る。いわずもがな、彼の食いっぷりが歌や踊りに勝るとも劣らないエンターテインメントだからだ。コンセプトは、「アラ還をターゲットにした子育ての追体験」。
各テーブルには、おひつと寸胴が用意され、気持ちのいい食いっぷりに刺激されたアラ還たちがほっかほかの白飯やつゆだくの牛肉、時には紅しょうがを給仕する。彼の周囲は「アタシが!次はアタシが!」で揉みくしゃだ。胸の前で手を合わせ、見惚れるだけのご婦人もいるだろう。ちなみにこのディナーショー、彼女たちに食事はない。そして、彼女たちもそれを望んではいない。なぜなら彼の食いっぷりを観ること、そして給仕することで、彼女たちの胸は満たされているのだから。