さすがのツー


 ここ一ヶ月の間に、愛車が二度エンストした。

 一回目はジャスコの駐車場でアイドリング中に。二回目はジャスコから公道に出る際の一時停止中に起こった。幸い、大事に至ることはなかったがこんな状態では不安で乗っていられない。購入した中古車屋に電話をし、修理の約束を取り付けた。

 国道を飛ばし40分ほどかけて中古車屋まで車を持って行く。店員のKさんに症状を詳しく説明し、あとは天気、景気、東国原など当たり障りのない世間話をひとしきりこなす。自然な感じで会話が途切れた。二人とも幕引きの頃合いを計っている。

 口火を切ったのはKさんだった。「ええと、あちらが代車のカローラIIになりますね」そう言って店の外を指す。はっと息を呑むほどにボロい車がそこにはあった。錆びついたワイパー、まだらに塗装の剥げたホイール、型崩れのバンパー。野ざらしの車を拾ってきてとりあえず走るようにしてみました。そんな雰囲気を漂わせている。ただその瞳は真っ直ぐに前方だけを捉えていて、代車としての使命を忠実に果たそうとしているかのようだった。そうは言っても大事なのは中身。

 「ああ、あれですか」そう言って向けたKさんへの視線に、(あれはだいじょうぶなの?)という訴えを含ませてみる。するとKさんは(IIだからだいじょうぶです)と強い眼力で答える。IIだからなんなんだ。腐ってもIIはIIみたいなこと言われても困る。IIと言われれば大目に見れる部分は確かにあるが、許容範囲の限度というものがある。(ほんとうにだいじょうぶなの?)もう一度問うてみる。(IIですから)Kさんの答えは変わらない。IIがつくものは間違いないという根拠のない自信が彼の目から満ちあふれている。私は観念した。

 「それじゃあ、何か分かったら連絡お願いします」
 中古車屋を後にする。乗ってから分かったオプションが2つある。非集中ドアロックに、手動ウィンドウ。…まあいいさ、とカーステレオのスイッチを入れる。FMが聞きたかったのに自動サーチが止まらない。延々とサーチを繰り返している。手動選局でも受信できない。

 どうなってんだよこの車は。腹立つ。気分転換のためにコンビニで缶コーヒーを買う。しかしドリンクホルダーが見当たらなかったため、仕方なくその場で飲み干した。ここまで来ると装備のことなんてどうでもよくなった。帰りの車内は娯楽がないので、これ以上ないくらい運転に集中してみた。そうしたら意外にも運転はしやすく、乗り心地が良い。さすがはIIだ。そう思ったら、なんだかボロなIIが愛しく感じられた。ほんの少しだけ。

ご挨拶


 昨年、年末ジャンボ宝くじを連番で10枚買いました。結果を照合してみたところ、3000円と300円がそれぞれ1枚ずつ当選していました。投資が3000円で利潤は300円。

 私はこめかみを押さえました。
 よっしゃ!と勝利のポーズを取るには利益額が低すぎるし、年末ジャンボを購入したほとんどの人が損失を被っていることを考えれば、落胆のポーズを取ることには躊躇を覚えます。しかも、換金という手間を考慮に入れると利益額はさらに減ることとなり、私は明確な損得のジャッジメントを下せずにいるのです。

 しかしながらこの微妙な損得勘定は、私が記事を書くにあたって心がけている、『役に立たないことしか書きたくない』というポリシーに通じるものがあります。何となく保存してある出どころ不明のネジのように、ただそこにあるだけでなんの利益ももたらさない記事。読んで何か得るものがあったのだろうか?むしろ、読んでいる時間だけ無駄を得たのではないか?読後にそんな疑問を抱かれる記事でありたい。と思いながらしたためているのです。

 支給額300円、時間の無駄288円、差し引き12円の記事。みなさんに1年間でどれほど貯蓄させることができるかは分かりません。更新頻度によるでしょうが、1ヶ月に5回更新するとしても720円ほどでしょうか。微々たるものです。しかし、そんな微々たるものでも年越しそば、もしくは正月の切り餅の足しにはなるでしょう。

 甲斐性無しなブログですが、本年度もひとつお付き合いのほどよろしくお願い致します。

君の鍵を探しにゆくから。


 「なんか喉、渇いたね」僕がそう言ってコンビニに車を止めた。

 風は冷たいけれど、雲ひとつない空からの意外なほどに強い日射しがぐんぐんと照らし、車内をたちまち心地よい日だまりへと変えた。縁側でくつろぐような気分で運転をしていた僕は、心地よすぎて横になりたい。運転しながら横になりたい。運転しながら横になって東スポ読みたい。という気持ちが抑えられなくなり、そうなるともう運転ではなく、寝運転もしくはカウチポテト運転ということになってしまい危険なので、睡魔を取り払うべくコンビニへ立ち寄ることにしたのだった。

 熱い缶コーヒーを両手でパスさせながら車内へ戻る。飲み口に触れるか触れないかの微妙な位置から、ズッとひと口すする。熱い。コーヒーの香りが脳をつんとつついて催眠術が解かれたように眠気が引き、視野が明るくなる。さっきよりも空が青く見えた。

 さあさドライブを続けよう。僕はポケットから鍵を取り出す。しかしそこに鍵はなく、古いレシートが乾いた音を立てるのみだった。そんな筈ないと、すべてのポケット、足元、座席、靴の中。あらゆる場所をくまなく探しても見当たらない。濡れた筆が首筋をすうっとなぞり、焦りと動揺が目の玉を内側から何ミリか押し出す。落ち着け、ほんの数分間のことだ。コーヒーをすする。深呼吸をして目を閉じ、コンビニに着いてからの行動をゆっくりと思い浮かべた。

***

 結論から言えば、車の鍵はコンビニのごみ箱から発見された。何のことか分からないだろう。一体どうしてそんなことが起こりうるのか。その種明かしはこんな具合だった。

 駐車場に車を止めた後、用心のため鍵を抜いて店内へ向かおうとしたら、車内に空き缶が2つ、レジ袋が1つあるのが視界に入った。そして右手に空き缶、左手にレジ袋を持ち、コンビニのごみ箱に投げ入れたのだが、実はこの時、左手に車の鍵が握られたままで、つまりレジ袋と一緒に鍵を捨てていたのだった。

 「あのー、ごみ箱に車の鍵捨てちゃたかもしれないので、探してもいいですか?」と店員に聞いた時の合点がいかない表情と言ったらなかった。当然の反応だ。ごみ箱を漁っていると、情けない思いが湧いてきた。それは漁る行為にではなく、こんな状況に追い込んだ自分自身の愚鈍さに対してだった。僕はどうしてこんな所で、ひとり負け相撲を取っているのか。こんな失敗、二度としたくない。

 「あ、ありましたー」店員に薄ら笑いを浮かべて挨拶をすると、一人のドライブを続行した。やり場のない怒りと情けなさと恥ずかしさが込み上げてきて、人気のない道を選んで強くアクセルを踏み、どこまでも走った。

 入会しました。
 http://www.shippai.org/shippai/html/

初恋の味


sn330031.jpg


甘らっきょうのキャッチコピーである。

こんなでまかせ、かつてなかった。
もう一度言おう。初恋の味、甘らっきょう。

息を飲むほどの、ずば抜けたデタラメさ加減。
どんな頓知を駆使しても成立しない組み合わせ。
それを成立させんがための工夫がパッケージに伺える。

ピンクのハートで包まれた「初恋の味」、「甘らっきょう」の文字。
さらに「Love Love Scallion」という英文を上部にあしらっている。
恋っぽい要素を盛り込むことによる既成事実の構築。

強引。

工夫じゃなくて、強引。Love Loveってなあ。

「ニイちゃん、聞き分けのないこと言うたらアカンで。
 決まっとるやないけ、初恋の味は甘らっきょうに決まっとるやないけ。
 な?分かるやろ?みんな大好きなんや。分からへんことないやろ?」

手法としては、街のごろつきがふっかけてくる因縁と大差ない気がする。

スポーツドリンク


 

sportsdrink.jpg

 直球すぎる。

 薄暗い照明の片田舎スーパーで発見しました。ポカリスウェットを元祖とする系列飲料を十把ひとからげにしたときの呼称をそのまま当てはめているのは、コロンブスの卵的な逆転の発想なのか、それとも単なる手抜きなのか。私には、新聞紙を広げて足の爪を切りながら考えたようなネーミングにしか思えませんが、その身も蓋もなさ加減はここ数年で出色の出来と言っていいでしょう。

 しかし翻って考えれば、ネーミングに凝りすぎて名前だけではどんな種類の商品なのか想像できない、いわばネーミング無法地帯が横行している現況にあって、そのシンプルな眼差しには清々しさを感じます。私はこういうのを待っていたのかもしれません。

この会社、そのうち「清涼飲料水」という名前の飲み物を出すんじゃないでしょうか。期待しています。

http://www.surf-bev.com/