待ち合わせ


ちづ子と遊園地へ行く朝
あいにくの大雨であつた
こうなつては取り止めだろう
毛布に包まれていると
「待つています」
ちづ子からのメール
身支度をして家を出ると
雨はすつかり止んでいた

待ち合わせの場所でちづ子は
白磁色のワンピースで
ふくよかな体躯を包み
ずぶ濡れの三つ編みから
真ッ白な湯気をもうもうくゆらせ
バスストツプ 朝靄に佇んでいた

お手玉のようなポーチを下げ
匂い立つように まつすぐに佇む
それは紛れもなく ちづ子であつた


 

もち子インストアライブ


 こんばんは、もち子です。えー、まるやレコードさんのご厚意で、すでに1回目? 2回目? になりますけど、こうやってみなさんと間近で触れあうことのできるインストアライブを、このような素晴らしい機会を、ですね、私のために設けていただいてありがとうございます。見に来ていただいたみなさまにも感謝を申し上げます。ええっと、じゃあさっそく行きますか? 準備整ってます? はい、はい、では、聞いて下さい。もち子で「ほんでもってマイラブ」

ほんでもってマイラブ
作詞:まとはず礼 作曲:未定

 ぬるめのお湯に素足を浸して
 見上げているのマインスイーパー
 お願い目を閉じないでいて
 ほら今 生イカでビンタをするから

 ブラウン管は教えてくれるの
 激しくない選挙戦はない
 壮絶炭酸 愛が痺れる
 ほらもう No Reazonでいいじゃない

(ラップ)
 讃岐うどんで小グマを調教
 恵方巻きにて競馬を実況
 県には県道 都には都道で
 府には府道だし 道には道道
 連れて逃げてよぼやぼやしないで
 いますぐすぐいまメメントモリクミ

 私のキモチもあなたのキモチも
 言葉に出さなきゃ伝わらないから
 勇気を出してよ 暴れる山車だYO!
 言いたいこととか あるなら早よsay!
 未来永劫 未来へGO!
(ラップおわり)

(セリフ)
 油あげが好きなの

 おしくらまんじゅうじゅくじゅく傷口
 アスファルトから生えて来たって
 それでもアナタ 根性ナシね
 ほらその パーマネントをほどいてよ

 手肌をいたわる なんとかグリーンと
 マフラーの奥 隠したきな粉
 そんなアナタが ほとんど好きよ
 ほらそう 今のスマイルを返品

(セリフ)
 とっちめてあげる
 

 えーと、ありがとう、みんなー、どうだったー? そうでしょう? 曲がないでしょう? そうなのそうなの、だから朗読なの。ビックリした? でも仕方ないの、曲がないんだもの。でもね、曲があっても私、音痴なの、ダメなの、歌ったら迷惑かかっちゃうの。だからね、どうしてこんなイベントしてるのか分からないの。ワタシって何? 噛ませ犬? 読ませ犬? なんなのよ、こんな歌詞、山羊にでもくれてやるわよ! ンメェェェエ! ・・・んまあ、吐いたわ! もう好き勝手にすればいいじゃない、ワタシ帰るわ! まったく馬鹿にしないで頂戴!

***

ああ、もうごめんなさい、一体なんなんだと思われたでしょうが、そう言われても、私としても困るんです。意味を見い出そうとするのはよしてください。まだまだ体の疲れが抜けていないみたいなんです。

寝耳に風呂水


 
頭ごとざぶんと湯船に浸かったら、耳に侵入した水が出てこなくなった。いくら頭をぶんぶん振っても出てこない。片足ぴょんぴょんをしても出て来やしないし、ティッシュこよりのこちょこちょで吸い取ろうとしても出てこない。ぶんぶんぴょんぴょんこちょこちょと何度も何度もローテーションしたけど全くもって水は出てこない。ごわああぁん。これがプールとか海で入った水なら「だいじょうぶ? ちょっと見せて」なんて膝枕とかの想像も膨らむけど風呂水じゃダメだ。情緒ってものがない。浮かんでくるのは風呂水ワンダーだけだ。ごわわあぁん。素材サイトからダウンロードした掃除機の音源ファイルをipodに投入して大音量で聞いてみたりもしたけど耳の中の水は一向に出てこない。いったいどうやったら出てくんだよ! 振りすぎた頭が痛くて痛くて猛烈に頭に来たので「マンモグラフィーッ!」と声を殺して叫んで寝た。夜中のトイレに立ったら耳の中の水がなくなっていることに気が付いた。結局は寝るのが一番なのか。あ! と思い立ち、googleでマンモグラフィーの意味を調べてから眠りの続きをしようと思った。ごわわあんあん。
 

昼下がり、僕らのダンス


 
 いま、僕は、ベロを出しながら歩いている。
 正確に言えば、ベロを出しながら気をつけの姿勢を保ちつつ、爪先で前のめりにちょこちょこと歩いている。のどかな、平日の昼さがり。

 取り返しのつかないことがしたくなったのだ。
 ここは地元の複合型ショッピングセンター。知り合いに出くわす可能性は十分にある。その際、ベロ出し気をつけちょこちょこ歩きのことを、どんなふうに説明すればよいというのか。よしんば、知り合いに会わなかったとしても、主婦主催の井戸端会議で物議を醸すには、十二分の奇態であることは間違いない。変人のレッテルを貼られるのは目に見えている。そんなリスクとスリルとがチャンプルーして湧き上がった妙な高揚感が、僕のモチベーションを鼓舞してくれる。

 トイザらス前のベンチへ向かって、ちょこちょこと歩いてゆく。平日だけあって、人影はまばらだ。

 保育園の黄色い帽子を被った男の子が、ベンチに座って足をぶらぶらさせて、「なにしてんのー?」と声を掛けてきた。好奇心の眼差しがまとわりつく。僕は、答えの代わりにその場でちょこちょこ何度も往復してみせた。男の子は、僕の動きに触発されたらしく、見よう見まねでちょこちょこと、嬉しそうに行ったり来たりしている。

 男の子の傍らには、よちよち歩きの幼児が立っていて僕らの動きをじっと眺めている。弟だろうか。おむつで膨れ上がった尻をくっと落とし、土俵入りの力士みたいな格好で、不器用に手をぱちんとひとつ叩いて、「あはー!」と笑った。

 開けっぱなしの口からすうっと垂れたひどく透明な唾液が、午後の陽射しを乱反射させる。眩しい。

 すでに男の子は、ちょこちょこ歩きをやめ、独自路線を歩んでいた。無秩序な阿波踊りと呼びたいような、はちゃめちゃで出鱈目なダンスだった。「うひゃうひゃ」と奇声を発している。僕も負けずに激しくちょこちょこ歩いた。もちろん、ベロを出して気をつけの姿勢で。よちよち幼児も、小さな体と両手を上下させて、きゃっきゃきーきーとご機嫌な様子だ。

 もう、誰に出くわそうと構いやしない。勝手に井戸端会議で笑えばいい。僕はいま、底抜けに楽しいのだ。

 ちょこちょこ、うひゃうひゃ、きゃっきゃきーきー。
 ちょこちょこ、うひゃうひゃ、きゃっきゃきーきー。

 それはちょうど30回目のターンだった。向かい側の100円ショップから出てきた女性が僕たちを認めて一瞬、立ち止まった。と同時に、いくつもの買い物袋をわさわさと荒々しく揺らしながら猛スピードで走ってくるのが、視界の端に見えた。

 僕は向きを変え、裏口の駐車場へちょこちょこと走った。建物の陰から彼らを振り返ると、母親と手をつないで歩いている後姿が見えた。2人とも、興奮冷めやらぬといった感じで、せわしなく動きながら歩いている。しばらくすると、「ちゃんと歩きなさい!」とでも叱られたのか、黄色い帽子は今ではもう、その揺れを止めている。

 彼らは、家に着く頃には僕のことも、楽しく踊りあったことも、すっかり忘れてしまうのだろう。彼らの記憶に僕は残らない。忘れてしまうということは、きっと、取り返しがつかないことなのだ。


 

いいわけする魔女


 
ミスタードーナッツとパチンコ屋の間で魔女を見つけた
足首まである真っ黒なコートみたいなのを羽織ってて
そのうわっぱりの下は膝上のタイト・スカート
あたまには防空頭巾みたいなものが巻いてある
二十代かな? 石鹸の香りがひらひら寄ってくる


買ったばかりの文庫本をバサリと落としたら
ひょいと魔法で僕の手元に戻してくれたのが彼女
本が空中に浮いたので僕は驚いた のなんの


二コリと笑って「ありがとう」と彼女はのたまった
「どういたしまして」と僕もつられてのたまった
逆でしょ逆でしょ 逆だよね?
彼女は棒切れみたいな杖をひょいひょい振ってる
せっかちな指揮者みたいにちょこまか振ってる
ほっぺたが うすらピンクに染まってる ははあ照れかくし


何か こまって いることは なあい?
杖はひょいひょいから びゅんびゅんになっていた
あぶないあぶない あぶねえよ ってば
鼻先をかすめる危険な杖をよけながら 僕は答える
瞳孔を覗き込んで ゆっくりと僕は答える


きみの なまえを おしえてよ
彼女はうつむきながら小さく答える
それを 言ったら 怒られちゃうの
杖はびゅんびゅんから キーンになっていた
あちらこちらで犬が吠えだした
あちらこちらに魔女の超音波が届いたのだろう