空も飛べるはず日記&コラボックルニュース(0807)


 年に何度か、空を飛ぶ夢を見ます。空を飛ぶと言っても優雅に大空を舞う鳥のそれではなく、例えるならば、スーパーマリオの海ステージにおいてAボタンを押した分だけビョッ、ビョビョッと浮上するような感じの、しかも飛行高度は電線レベルという、「空」より「空中」と表現した方がしっくりくる「必死なオバQ」とでも名付けたい飛び様なのです。

 で、具体的な部位は分からないのですが、体のどこかに力を入れる、もしくは意識することにより飛ぶ仕組みになっているようで、そのせいか、水揚げ後の魚みたいに体をビクつかせながら汗ぐっしょりの疲労困憊で目覚めるのが常です。淫らな行為の夢から覚めた際にも腰を振っていることがありますが、疲労具合はその比ではなく、空を飛ぶことがどれだけ大変なのかを物語っていると言えましょう。

 でもまあ「必死なオバQ」だとしても、飛んでいるときはそれなりに楽しいものです。それに引き替え、実生活でのいろんな意味での飛んでなさ加減といったらありません。ああ飛びたい。飛びたいし飛ばしたい。せめて「パーマン」レベルで飛び回りたいし、あわよくば「フランスの作曲家ドビュッシー」レベルで飛ばしたい。

 いま、ふと思いつきで「空を飛ぶ夢」をgoogle検索してみたら「空を飛ぶ夢は性的な欲求のあらわれ」と出てきました。えええーそうなの?まいっちんこ。どなたか詳しい方、善意の解釈求みます。

 さて、やっとこ隆光ダイアリーの告知です。
 今回は豪華です。こういうのはどうですかねえ?と提案したシチュエーション両方を描いてくれました。今回も、ほにゃみさんに大幅に助けられた感じですありがとうございます。しかも、わざわざ8月7日午前0時にアップしてくれました。やだよ恥ずかしいって言ってるのに「どうしても!」と言うので渋々承知しましたウソです。本当は初めから8月7日にしてもらいたいとムッツリ思っていましたすいません。

ではどうぞ。

隆光ダイアリー 第五関節
http://d.hatena.ne.jp/honyami1919/20080807

ぜんぜん酔ってないってば日記


 

看板

http://www.hanbey.com/index.html
こんな感じの看板がみっしり飾られた居酒屋へ。

 メニューがやたらと安いせいか、開店直後にも関わらず満員御礼。てんてこ舞いで飛び回るうら若き女性店員をやっとつかまえてビール。ここぞとばかりにつまみも「とりあえず」で数品オーダー。するとうら若き女性店員はメモ帳のようなものに走り書きしてすばしっこく奥に消えた。

「おつかれーい!」
 鼻の下に白いヒゲを作っている僕たちの前に「ハイよ納豆お待ちどう!」とカウンターからの手が。「頼んでないです」「頼んでないです」二人で即座に否定する。なんで? なんだ? なんだろね? とオーダーを思い出してみたところ、どうやら「枝豆」と取り違えたらしいことが判明。

 「とりあえず」のファーストオーダーで納豆単品はないでしょ普通。考えれば分かるでしょ違うって。生をぶはーってやりながらの納豆、違うでしょ? 違うよね? いや、ある意味間違ってはないよ。結局どっちも大豆だし。あ! もしかして枝豆風に指でつまんで食えってことだったの?

 『そっそっそ、あっつあつのこれをこうして塩をパッとしたらな、指でつまんで弾いて、ううーんやっぱ茹でたて最高! ってこれ枝豆ちがうよ! 』

 そういったフリを仕掛けてくる気の置けない居酒屋が欲しいなあ、などとも思うこの頃。

オッパイアイス

 公衆の面前で、しかも見ず知らずの人(店員(女性))に向かい目をそらさず堂々と胸を張って「オッパイ」などと言えるチャンスは滅多にないので、忘れずデザートで頼もう! と思っていたのですが忘れてしまいました。

裸に紙エプロン

 帰りしなにラーメンをすすってみる。「紙エプロン、使う?」と友人に聞いてみたら、しばし沈黙のあと「裸に紙エプロン」とぽつり、酔いで濁った目をして呟いたのでした。

 

 

ロックンロール日記


 ほぼ直線のみの通勤路に飽きて別ルートで帰る。全部の窓を全開にして、ただただ広いだけの農道へと折れ、Tシャツをはためかせる夕風に体温を奪われながらひたすら車を走らせた。対向車も後続車も見えない時速65キロ。「チン、コッ!」言葉のチョイスに意味なんてない。大声を出してみたかった、ただそれだけのこと。すうう、と大きく深呼吸をした瞬間、むせ返るほどの堆肥臭があっという間に車内を制圧した。これが、俺が住む町の現実。だからといってあたふたと窓を閉めたりはしない。車内をがむしゃらに暴れ回る芳香にまみれながら、何事も無かったかのように、しっかりと受け止めるようにして、ただただ走り抜けた。ロックンロール。

 コンビニで43円のお釣りをもらった。1円足りない。「あの、1円足りないんですけど」手のひらの小銭をそっくりそのまま差し出しながらぶっきらぼうな口をきく。たった1円だろうが、足りないものは足りないに相違ない。「失礼致しました」メガネでハタチの店員が1円玉を43円の上にカチリと落とす。「ありがとう」俺はそう言ってすかさず手のひらの44円を募金箱へザラザラと流し込みレジに背を向ける。なんの募金かなんて知らない。膨らむサイフが嫌いなだけの、俺は偽善者なんだ。ロックンロール。

 街を歩きながら熱い屁をした。どうやら間違えてしまったらしい。足をくじいたような歩き方でデパートのトイレに立てこもり、ウォシュレットでじっくり時間をかけて清潔にしてから、丸めたトランクスをゴミ箱へ投げ入れた。ぐわんぐわんと回って揺れるゴミ箱。俺は振り返りもせず街へと飛び出した。そして、下半身に風を感じながら駅までの道をどこまでも歩いたんだ。ロックンロール。

 カシュ。ホチキスの芯切れ。たまに使えばこのザマだ。トイレットペーパーだってそうだし、コピー機だって用紙切れ。今にして思えば交換ばかりしている。俺は生まれながらの交換手なのかもしれない。こうなったら、なんだって交換してやる。タイヤだってオイルだって電池だって日記だってタンポンだって、なんだって交換してやるんだ。ホチキスの芯をもらいに総務へ行くと、スナック菓子の袋を開けてほしいと頼まれた。10時のおやつ。ホチキス欲をくじかれ焦れつつオーザックの袋を引っ張る。これは、なんて手強い。ぬ、ぬぉっ!!! 掛け声とともに噴火するオーザック。そのサクサクした物体はスローモーションのように天井高くまで舞い上がり、そして白い花びらのように体に降り注いだ。そのとき俺はなんだか、祝福された気分になっていたんだ。ホチキス、オーザック、ロックンロール。

セプテンバー、犬。


 あるところに犬がいました。
 犬は、腰のまがったおじいさんと暮らしていてそれはたいそう可愛がられていました。犬はおじいさんのことが好きでした。

 朝・昼・晩の散歩に出る前、おじいさんは小屋の前のビールケースに立って見下ろしながら「おい、犬。行くど」とビジネスライクに言い放つのが常でした。

 それでも犬はおじいさんのことが好きでした。

 ヨタヨタ歩くおじいさんの後ろをヒタヒタ追って、朝の駅前に並んで立ちました。改札から吐き出された女子高生の群れがおじいさんと犬を取り囲みます。

「キャーかわいー!」
「そうじゃろうそうじゃろう」
「ちょーかわいいー!」
「いくらでもなじぇたらよかろう」

 そうして女子高生が犬を撫でているあいだ、おじいさんはほぼ半目になりながら女子高生の空気を深呼吸で体いっぱいに取り込み「ええのう、ええのう」と帰りの道すがらで呟きました。

 それでも犬はおじいさんのことが好きでした。

 昼は、あてどなく歩きました。そうしていると、大根畑から突如として現れたあき竹城似の中年女性が「あらかわいごどー」と近寄って来ました。おじいさんは歩みを止めることもせず完全に無視を決め込みました。

 それでも犬は、おじいさんのことが好きでした。

 夕方は高級住宅街のスーパー前に並んで立ちました。

「きゃあ、かわいらしい。なんて名前かしら?」
「犬じゃ」
「へ、へえー。それにしてもラブリーね」
「そうじゃろそうじゃろ、なじぇたらよかろ」

 そうして、スカした大きめのサングラスをかけた彼女たちが犬を撫でているあいだ、おじいさんは半目でもってお洒落かつグレードの高い空気を大きく体内に取り込みクラクラしつつ、胸の谷間に視線を注いだりしました。

 そのときです。おじいさんが密かに「ボンキュッボン」と名付けている豊満な体つきの若い婦人が「ちょっと!ジジイ!何見てんの!?」と叫び出しました。バレたのです。おじいさんは脱兎のごとく駆け出すと、犬が追いつくのもやっとの早さでどこまでもどこまでも、どこまでも走りました。

 人気のない山裾のあたりまで来たとき、傍らに湧き水の立て看板を見つけました。おじいさんは這いつくばるようにして夢中で水を飲みました。犬もたまらずぺしゃぺしゃ飲んだのですが、あまりに夢中で飲んだので酸欠で湧き水に落ちてしまいました。「犬!」そう言って手を差し伸べたおじいさんも落ちました。

 おじいさんは呼吸の荒いずぶ濡れの体を草むらに横たえ、しばらくのあいだハアハア言っていましたが、ちらりと犬を見やると突然、笑い出しました。ひきつけを起こしたように笑いました。そして、笑いすぎの酸欠でまた落ちました。

 犬は、おじいさんのことを、ずっと前から好きでした。

 数年後、おじいさんは病気を患って入院し、犬は孫娘によって引き取られました。犬は、もうおじいさんには会えないような気がしていました。孫娘の家族は犬のことをロッキーと呼びましたが、よもや自分のこととは思えず、ただおじいさんに会えない寂しさでみるみる痩せてゆきました。

 犬は、孫娘の膝の上でした。「ロッキー」という名前にも慣れてきたというのに声が出すことが出来ません。扇風機のぬるい微風を受けながら、ただ、弱々しく伏せるのみです。セミのうるさいジージーが止むのと同時にカルピスの氷がカランと音を立てました。妙な気配を察知した犬が薄目を開けると、そこに、おじいさんが立っていました。半透明のおじいさんでした。犬はうれしさたまらずシッポを振ったのですが、おじいさんは犬に目もくれず、孫娘の首筋あたりで鼻をくんくんさせるばかりです。

 すっかり忘れられてしまったのでしょうか。犬は悲しくなって目を閉じました。するとおじいさんが「おい、犬」と低く呼びました。目を開けてみると、ふわふわ宙から見下ろしながら「おい、犬。行くど」とビジネスライクに言いました。

 犬はうれしさのあまりワン! と飛びつきました。そして、おじいさんに撫でられながら振り返ると孫娘の泣いている姿が見えました。傍らの母親は「最後に、ロッキー、笑ってたね」と言って、犬の体と孫娘の体をさすり続けています。

 向き直るとおじいさんも泣いていました。もう、この部屋で、泣いていないのは犬だけです。犬は、泣いてないことにするためにおじいさんの顔を舐めました。とてもしょっぱい味がしましたが、犬は我慢して舐め続けました。

 それは9月の、ひどく暑い日のことでした。