七三日記(0323)


 
■天然パーマがはじけてきたので美容院に電話をしたら「午後4時以降で」と言われたので行くのをやめた。当日予約だから仕方ないものの、どうにも時間が中途半端すぎる。慣れない職場で疲れている私に対し、空が茜に染まる時分から動き出せとは。どんな頓知でも処理できないと思うよ。■ということで一日中部屋でうねうねごろごろしていた。■新しい職場で私は、下の名前で呼ばれている。同じ名字の人がいるからである。当初は、新参者の私を名字で呼ぼうと決めたのだが、古参の方が下の名前で呼ばれることを断固拒否したのだ。■それにしてもいい天気だ。窓から流れ込む風が心地よい。家にいる場合じゃない! と思っているのに、どうしてもジャージから着替える自信がない。脱ぎ捨ててある私服を拾って着るだけなのにおかしな話である。■そんなわけでインターネットばかり見ていた。とは言っても、見たいページがあるわけじゃなく、なんとなくお気に入りをクリックしたり、RSSのニュースを斜め読みしたり、ヤフートピックスの『アッキーナ「サ行が言えない」』などを読み、ひどくどうでもいい気分になっていた。■始めっから下の名前で呼ばれることには多少抵抗があるものの、まあ、30半ばにもなって「まとはずれ君」とか「まとはずれさん」などと、オフィシャルな場で呼ばれる機会なんてそうそうないんじゃないかと考えるとなんだか楽しい。■3月23日。そういえば今日は、友達の女の子の結婚式だったと気づく。ちょうど今頃は沖縄で式の真っ最中のはず。片や、歯も磨かずにサンデージャポンを眺めている自分。なんだろうな、この負け感は。いやまあ、他人と比べてもしょうがないんだけど。あ! そういえばちょっと前にこんなメールが来たんだった。■「一生に一度のお願いしてもいい? 結婚式のとき、ミッキーとミニーのブライダル電報がほしい縲怐cダメ?」■若干の苛立ちを感じたけど、インターネットからすぐに手配した。祝い事をケチるなんてみみっちいじゃない。たかだか税込み3,990円ぐらい。と思っていたが、合計金額は5,000円を超えていた。電報って、お祝い文の文字数で値段が変わるのね。送ったことなかったから知らんかった。知ってたら切り詰めたよ。うわー、みみっちい。■下の名前で呼ばれることには問題がないわけではない。もし、仕事で大きな失敗をしたとき、どう呼ばれるのか。下の名前で呼ばれながらこっぴどく怒られるという状況がどうにも想像できない。緊張感が大きく損なわれるのではないか。しかしこれは、呼ばれる側ではなく呼ぶ側の問題なので、私にはどうすることも出来ない。さあ、どうする? どう呼ぶ?

アイマイミーはドライアイ


 転職しました。
 最初の一週間だったんですが、仕事らしい仕事もしてないのに疲労がひどいです。私は極度の心配性および緊張家なので、まだまだしばらくは涙目期間を過ごすことになります。で、どんなことをしているのかというとアレをこうしてソレをアレして、ソレアレソレアレ、ソレソレソレソレ! ってな感じで一日中ディスプレイを見ているので目がもんのすごく乾くんです。

 あの、目薬ってありますけど、あれの効果なんてのはあってないようなもんで、絶えず目に湿気を与えないことには解決にならんと思うのですよ。例えば加湿器。USB加湿器なんてのがあれば手軽でいいよね。なーんて思ってたらホントにあるのかあ。でもやっぱし加湿器ってのはなんか大袈裟な感じ。じゃあどうしたらいいのか。ってことで考えてみたんだけど要するに、目の表面の水分が蒸発するから乾くんですよね。当たり前のことだけど。

 てことは油じゃないでしょうか、油。目に油を差すんです。正式には目油、っていうのかな。ほら、油は蒸発しないし、瞼の開け閉めも多少スムースになるし。魚の形した醤油入れで持ち歩けばスマートだし。スタンダードなサラダや菜種、ときにはオシャレなオリーブオイル、アグレッシブにゴマ油、ロハス気分で特保のオイリオ。なんていう感じで気分に合わせて変えられるのもオフィスレディに受けがよさそう。

 まじめな話、秀逸なアイデアだと思うんだけどどうでしょう。これ、流行っちゃうのかな。ねねね、どう思う? なんでそっぽ向いてんの? とりあえず誰か試してみてくれるとうれしいな。あ、でも、ラードだけは禁物。固まっちゃうから。

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パーソナル加湿器って。

残念な尿≒残尿


 女性にはとっつきにくい話題で申し訳なく思っていますし、ついこないだも尿の記事を書いたばかりなので、「もしかして、頻繁に尿の記事を書くってことで『頻尿』とか言いたいの?」などとおっしゃる方もおられるようでなんだか悲しいです。

 まあ、そんなわけでですね、「まさかまさかそんなこと」などと思っておりましたが寄る年波には勝てないとでも言うんでしょうか、30を超えたあたりからあからさまにキレが悪くなりました。

 残らず用を足すじゃないですか、で、水洗い後の毛筆さながらプルンプルンプルンといつもより多めに振って万全を期しても、ファスナーの奥へと収納した途端、ツツーと何滴かが太ももを伝ったりするんです。

 きゃーヤだ! ってそんな、俺たちだってイヤなんですから。あのね、想像以上の不快感なんです。拭えるならすぐさま個室に飛び込んで拭いたいんです。でもね、いるでしょ? 他にも用を足している人がいるでしょ? そういう人たちの手前、「アイツ、間髪入れずにウンコすんの?」なんて思われたくないので、太ももを伝う尿がどんなに不快であっても何食わぬ顔でトイレを去らなきゃならない。それがビジネス。

 だけどひとつだけ言えることは、誰も悪くない。誰も責めることが出来ないんです。だから責任の所在はどこにもない。それぞれがそれぞれに最善を尽くしてて、一連の流れに何ひとつ悪意が介在していないとなれば、これはもう、天災だと思うよりほかないんです。

 また今日も、日本中のサラリーマンの太ももを尿が伝っています。その尿は、大地へと伝い水たまりとなり池となり、やがて溢れて川へと変容し、せせらぎ流れて別の川と出会い、ほとばしり、濁流となってうねり、とうとうと流れる大河となり、ついには母なる海へと辿り着くのです。

 残念な思いを抱えながらサラリーマンは生き、そして、日本を支えているんです。残念をバネに、これからも日本を支えて続けてゆくんです。それがたとえ、残念な日本であっても。

ずるいカニ


 タレントの人たちが楽しそうに越前ガニをすすっているのをテレビで見た。越前ガニ。そう呟いて、ふと、じゃあ越後ガニってのもいるのか? と疑問に思い、どんなカニなのかと想像してみたものの、どうも美味しそうな感じがしない。いや、美味しいとか以前にずるがしこい。常に悪だくみを企てている感じがする。

 水揚げから逃れるために、「ブリの奴らがたむろしてる海域でワタシら、ハサミ出してますから」などと言葉巧みに取り入って、漁協組合長から便宜を図ってもらったりするのだ。なんとも狡猾なカニである。そしてそれを指摘すると「だってワタシら、狡猾類ですもん」などと何食わぬ顔で憎たらしいことを言ってくる。

 またある時は、その鋭いハサミで女子高生のスカートに縦の切れ目を無数に入れ、そしてその挙げ句「大将、開いてる?」などとやったりする。居酒屋ごっこである。まさに外道。外道ガニ。そしてそれを指摘すると「だってワタシら、げ、げ・・・・・・」と言ったきり黙りこくってしまった。どうやらウマい返しが思いつかなかったらしい。

 少しとっちめた気分になり、幾分か溜飲は下がったものの、彼らのせいで私のカニ好感度は著しく低下した。「さるかに合戦」で幾度となく捧げた幼少期の同情心をどうしてくれる。私はこれから一生、平常心でカニを食べることは出来ない。たぶん、青筋を立てながら、ひたすら無言でむさぼり食うことになると思う。

胸を張って、堂々と。


「まとはずれ君て、四字熟語で言えば『挙動不審』だよね」

 遠い昔、とある女性からそんなふうに言われたことがあります。現在の私であれば、その事実を自分自身でキチンと認めた上でおおいに笑い、そして「なんつう喩えだよ!」などと突っ込み、その事実を「オイシイ」とさえ感じることでしょう。

 しかしながら、心がセンシティブの渦中あった20代前半の当時は、取り繕いの笑みを浮かべながら「ははは、そうなのかなあ」などと重みゼロの言葉をうわの空でひょろひょろと吐き、談笑を装うもののその実、園芸用スコップでザックリと掘り返されたみたいに胸を痛めておりました。

 ちなみにその女性の言い方は、なんら悪意があるふうでもなく、むしろ「そういうところが見てて楽しいの」という、プラスかマイナスかで言ったらプラスの感情が含まれていました。ました、とはいうものの、掘り返された場所に色鮮やかなチューリップが咲くわけでもなく、たくましい大根が実るわけでもなく、コロコロした里芋を収穫出来るわけでもなく、私の心に広がる「ミミズも住まない悪い土壌」には、ただただ、からっ風が吹きすさぶばかりなのでした。

「笑いながら怒る人」という竹中直人のギャグがあります。文字通り「笑い顔で怒る」というシンプルなこのネタは、「笑顔の人は怒ったりしない」という我々の一般概念を覆すことにより成立していて、かつ「ギャップ」を笑いに転換させた、いつまでも色褪せることのない秀逸なギャグです。

 ギャップ。そう、あのときの私も、天使の笑顔から発せられた「挙動不審」という言葉によって、脳震とうを起こさんばかりのダメージを受けたのです。笑顔が眩ければ眩いほど、そして、発する言葉の毒素が強ければ強いほどダメージは大きくなります。それは例えば、カリスマラーメン店の店主が麺の水気を切るために、天井いっぱいまで腕を伸ばしてそこからチャッ! と床ギリギリまで一気に落下させたときの落差、そう、あの、目も眩むような落差を無防備な体制で受け止めたようなものです。

 芸人であれば「アチ、アチアチッ!」とのたうち回った挙げ句、「ふざけんじゃねえよ!」などと大激怒することは想像に難くありません。ですから私が「挙動不審? ふざけんじゃねえよ。四字熟語つながりで『行方不明』にしたろか!?」などと怒声を放ったとしても世間はきっと許してくれたことでしょう。

 何事にも自信がなかったんですね当時は。だから何も言えなかった。言うことができなかった。・・・・・・いや、自分に自信がないのは今も同じです。ただ、今の自分が、ひとつだけ自信を持って言えることは、挙動不審の技術に関しては人後に落ちないということ。

 タイムマシンが本当にあるのならば、私は、あの頃の私に向かってアドバイスをしてあげたい。「大丈夫、胸を張って、堂々と挙動不審していいんだよ」って。

YouTube – 竹中直人 笑いながら怒る人
http://jp.youtube.com/watch?v=mxV-Kod4WsU