ニューヤッケ


ヤッケ

――インタビュアーの塚本七太郎です。よろしくお願いします
   ええ

――はじめにお名前を伺ってもよろしいですか?
   MA・・・C・・・K・・・

――はい? あのすみません、もう一度お願いします
   M・・・CH・・・KO・・・

――もう少しはっきり言っていただけると助かるのですが
   ・・・MACHIKO

――・・・は、はあ、なるほど、MACHIKOさん、ですね
   ええ

――ではさっそくお聞きします。ズバリ新製品の感想は?
   ええ

――・・・あのー、それは「良い」ということでしょうか?
   ええ

――今回、撮影モデルとして参加してみてどうでした?
   さー

――そんなに硬くならなくても大丈夫ですよ(笑)リラックスしてください
   あー

――このヤッケでレヂャーなどなさったんですか?
   まー

――ほう、仲の良い男性のお友達と、二人で?
   わー

――ごめんなさい芸能リポーターみたいなこと聞いてしまって(笑)
   もー

――ええっと、それでは通気性はいかがですか?
   すー

――なるほど、すーすーして快適だと?
   ノー

――どっちなんですか?
   じゅー

――あ、すいませーん網替えてください! って焼き肉ですか!?
   ねー

――ねーって同意求められても。あの、私の質問ちゃんと聞こえてますか?
   やー

――室内ですし、フード外しませんか? 聞こえづらいでしょう
   ぱー!

――分かりました聞こえてないんですね。ボクが外してあげます
   しゃー!!

――わ、威嚇!!!
   ・・・・・・

――ちゃんと聞こえてるんですね?
   ・・・・・・

――・・・あの、えっーと、お名前なんでしたっけ?
   MA・・・C・・・K・・・

――え? もう一度
   M・・・CH・・・KO・・・

――聞こえないです
   ・・・MACHIKO

――恥ずかしいんですね?
   へー

――へーじゃなくて、ホントはその芸名、恥ずかしいんですよね?
   はー

――若気の至りでローマ字表記にしたものの、ていうことでしょ?
   まー

――ほら、やっぱし
   ピー

――ちょっと! 放送禁止用語言ったみたいじゃないですか
   ズギューン!

――いやいや、卑猥な言葉とか言ってないですから
   ・・・・・・

――えーっと、お名前、なんでしたっけ?
   ズギューン! ズギューン! ズギューン!

――そんなに恥ずかしいなら、改名してください
   んー

――なに渋ってるんですか

ミルクセーキ


 
 餅田部長はやさしい。

 部長と二人でエレベーターに乗り合わせたとき、いつものニコニコ顔で「ほら、平井クン」と言ってポケットから取り出したミルキーをひとつ、私の手のひらにすっと置いた。うっかりミスで社外秘メールを外部転送して窮地に陥っていた私の姿が、相当しょげかえっているように見えたのだろう。そうは見えないように振る舞ってはいたけど実際は、麺類しか受け付けないほど精神的にやられていた。

 包みの両端を引っぱって、甘く香る乳白色の粒をころりと口に放ると、思いがけない甘さがたちまち体中を巡り巡って、パンパンの風船がみるみるしぼんでいくみたいにへなへなとへたり込みそうになった。部長を横目で見ると、階数ランプを黙って見上げている。また、白髪が増えている。すっと扉が開いた。目的の階じゃなかったけど「ありがとうございます」と振り返らずに短く言って、ヒールを鳴らしながら慌てて駆け込んだトイレで、声を殺してひーんと泣いた。ミルキーを舐めながら涙を流すなんて、私、バカみたい。と思ったけど、どうやったら止められるのか分からなかった。結局、部長のやさしい甘さが全部溶けてなくなってしまうまで、私は泣いていた。

 これが金田なら、ゴディバのチョコレートなんかをチョイスしてくるだろう。少し溶けかけたベタベタのを、これ見よがしに一粒だけ握らせてくるはずだ。より値の張るもので機嫌をとりたい典型的な男の中でも、ケチの加味された最低ランクの男だ。女の子はみーんな引いてる。こんなヤツが課長になれるなんて、この会社はオカシイ。とは言うものの、私は一度だけ金田と寝たことがある。見た目のカッコよさ以外に何も知ろうとしなかったあの頃の私も、やっぱりオカシかったんだと思う。座薬みたいなフォルムの車で迎えに来たあの時、間違いに気付くべきだったのだ。すごく後悔している。

 
***

 
 こんなこともあった。
 うっかりミスで大量の重要書類を次々とシュレッダーしてしまって半泣き状態の私に、「そんなにしょげるなよ」と肩に手を置いてやさしく微笑んでくれた。「だってだって・・・」とグズグズする私に部長は、今日はもう帰って休むようにと言ってくれた。帰りしなに買った牛丼特盛りをフランフランのテーブルにちょんと置いてから、姿見に映る自分を見て驚いた。右の、そう、右の肩に何かが乗っている。え? なに!? なんなの?? 恐る恐るつまんでみると、それは一枚のスライスチーズだった。

 泣いた。
 冷たい床にへたり込んでわんわん泣いた。気づかれないようにそっと乗せてくれた部長の、そのやさしすぎるやさしさに涙が止まらなかった。やさしいお乳の香りがプンと鼻先を刺激する。チーズの匂いを嗅ぎながら涙を流すなんて、私、バカみたい。と思ったけど、どうやったら止められるのか分からなかった。スライスチーズの半分は、牛丼の上でとろっとさせて一緒にモリモリかき込み、もう半分はおつまみにしてスーパードライをグビグビやった。私は、泣きながら食べ、泣きながら飲んだ。

 このエピソードを会社の女の子たちに話して聞かせた数日後、金田が私の肩に手を乗せ、「平井君、風邪、ひどいんだろ? 今日は帰っていいよ」と微笑んだ。たまには気が利くこと言うじゃん。私は朦朧としながら地下鉄に乗った。混雑で座れないので吊革にしがみついて目を閉じていた。いつになく周囲が騒がしいのが気になったけど、ただただ悪寒に耐えるので精一杯だった。あまりの騒がしさ耐えきれなくなった頃、「西巣鴨、西巣鴨~」と聞こえたのでホームへ降りた。その途端にアナウンスが響いた。

「えー、ただいまお客様より、車内で異臭がするとの通報があったため、緊急点検を行う関係上、この電車は当駅にてしばらく停車致します」

 やだーこわーい。逃げるようにして階段を駆け上がって地上へ出ると、後ろから「ちょっと、すみません」と声を掛けられた。駅員さんだった。私の右肩を指差している。見ると、何かが乗っている。え? なに!? なんなの?? 触るのが怖くて、マスクを外して匂いを嗅いでみると、やだ、臭い! やだやだやだー! 慌てて手で払ったけど、え!? 取れない! 勇気を出してつまんでみても、アッ、臭い! ダメ、取れない、がっ、臭い! すがるような目で駅員さんに近づいたら後ずさりされてしまった。もう、もう、なんなのよ、もう!! 思い切って鷲づかみにして地面に叩きつけたら、匂いを嗅ぎに近づいた野良犬が、キャゥン! とせつなく鳴いて逃げていった。

 部長のやさしさに対抗心を燃やした金田が肩に乗せたのはなんと、ブルーチーズだったのだ。馬鹿野郎。しかも、うすーく切ったのを両面テープで貼り付けるという、金田お得意のケチくさい高級志向を発揮して。おかげで、ヤフーのトピックスに、『地下鉄異臭騒ぎ、都内OL(28)の所持していたチーズが原因?』などと大々的に載ってしまった。ヴゥォォォォォォォォォオ!!! 怒り狂った私は、会社の女の子を総動員して買い占めたブルーチーズを金田のデスクの引き出しという引き出しへぎゅうぎゅうに詰め仕込んでやった。そして異臭に気付いた専務の逆鱗に触れ、金田は間もなく山梨の事業所へと左遷されてしまった。テヘ、ちょっとやりすぎちゃったか。

 
***

 
 そういえばこんなこともあった。
 忘年会で酔いつぶれた私は、ハイヒールがぷらんぷらんと脱げそうに揺れるリズムで目が覚めた。あ、私、誰かに背負われてる。新入社員の橋本くんだったらいいなー。最近彼とよく目が合うの。もう、このまま背負ってどこにでも連れてって! きゃー私ったらやだー。と期待の薄目で覗いてみると部長だった。驚きすぎて心臓の鼓動が倍の倍の倍でドクドクと鳴った。なんで? なんで?? 164センチの私を157センチの部長が、背負ってる。私は部長になんてことを。ああ、降りたい。降りたいけど、でも、降りたあとが恥ずかしい。どうしよう、どうしよう。私のやきもきをよそに部長は、えっちらおっちら重たそうに揺れながら、早回しのテープみたいな声で何か歌っている。

 ♪
 おらは死んじまっただー
 おらは死んじまっただー
 おらは死んじまっただー 天国に行っただー

 聞いたことない。昔の歌? それとも部長の自作? なんだか悲しくておかしくて、だけど落着くような、不思議な歌だった。

 ♪
 長い階段を 雲の階段をー
 おらは登っただ ふらふらとー
 おらはよたよたと 登り続けただー
 やっと天国の門についただー
 天国よいとこ一度はおいで
 酒はうまいし ねえちゃんはきれいだ
 ワーワーワッワー

 私は泣いた。
 部長にバレないように声を殺して泣いた。うっかりミスでがぶがぶワインを飲みながら「死にたい」を連呼していた私への、この私へ向けての応援ソングなのだと、勝手に思って泣いた。「オリビアを聴きながら」ならまだしも、変テコな歌を聴きながら泣くなんて、私、バカみたい。と思ったらピタリ、涙が止まった。

 歌はこのあと、神様に愛想を尽かされるほど酒を飲み過ぎ、天国を追い出されて生き返った。というくだりで終わった。私はコンビニのベンチで降ろされ、「平気か?」と聞かれたけど酔ってるフリで俯いたまま短く頷いた。「ちょっと待ってろ」そう言って部長はコンビニでミルクセーキを買ってきてくれた。チビだし髪薄いし雪だるまみたいな顔してるけど、私は部長のことが好きだ。結婚するならこういう人がいい。私、こういう人がいいの。

 ミルクセーキの甘ったるい湯気が私をふんわりと包む。ひと口すすると、コクのあるやさしい甘さが体も心も温めてくれた。私は泣いた。何もかもがやさしすぎて、しくしくと泣いた。部長は見ないフリをして、ワンカップをひと口すすった。目の前の国道では、ぐでんぐでんのサラリーマンがタクシーを捉まえようと必死に手を上げているものの、ことごとく乗車拒否されている。こんなシチュエーションで泣くなんて、私、バカみたい。と思ったけどどうやって止めたらいいのか分からない。と思ったら止まってた。しばらく沈黙が続いた。

 「・・・オレも、追い出されてえなあ」部長が唐突につぶやいた。え? え? どんな言葉をかけたらいいのか見当が付かない。・・・生き返りたいって、こと? そんな、そこまで思い詰められているなんて、部長の抱えているものっていったい。様々な憶測が脳裏を駆け巡る。ああ、もう! 私はなぜだか突然そうしたくなって、「餅田さん」と呼んでみた。驚いて振り向く部長。しかしそれ以上に私自身も驚いていた。なんだか顔を上げることが出来ない。きっと、二人の間の何かを変えたくてそうしたのかもしれない。再び長い沈黙が続いた。気まずい。

 乗車拒否されていたサラリーマンが、こちらへ向かってよろよろと近づいてくる。どう見ても私たちに危害を加えることができる状態では無かったし、何かあれば部長がなんとかしてくれると思ってたけど、ドキドキした。彼は私たちの前にふらりと立った。そして、ゆらゆらと揺れながら右手を差し出して言った。

 「ちょうだい、ボクちんに、タクチー、ちょおだいっ!!」

 魂の叫びだと思った。捉まらないのがよほど悔しかったんだろう。私は思わずプッと吹き出してしまった。きっと部長も苦笑しているはずだ。こういう、なんてことない体験の共有が二人の関係を深めるきっかけになったりするのだ。そう思って部長を見ると、真剣な顔でサラリーマンを見つめている。そしてひとつ頷き、すくっと立ち上がったかと思うと「どちらまで?」と尋ね、自らの背中を指し、よれよれのサラリーマンを背負い、えっちらおっちら人気のない国道を歩いてゆき、ついに見えなくなってしまった。

 ねえ、神様。私、やっぱり間違っていたのかしら?
 泣きたいはずなのに、どういうわけか涙は一粒たりとも出てこなかった。

 

 
[動画1]
帰ってきたヨッパライ / ザ・フォーク・クルセダーズ
http://www.youtube.com/watch?v=uYOx3_P1sqY

[動画2]
エアウォッシュ トイレCUBEタクシー篇
http://www.st-sendenbu.com/cml/
知り合いの方から、こんなCMがあるとの情報を得ました。

 

携帯用メッセージ壁紙No.003


空を見上げて、
愛しい人のことを思い浮かべる。

雲の形が、
愛しい人の笑顔に見える。

べつの雲は、
思いにふけったような横顔。

そんな雲を、
じっと眺めながら、
思ったんでしょうね、
きっと。

きみはいま(1)

せつなさに胸が苦しくなるようです。

だけど雲は、
その自由で、
かつ個性的な形は、
ボクの想像力をかき立てて、
幾通りもの解釈を与えてくれるのです。
そう、ボクだけに。

きみはいま(2)

振り払え!
 

ボクは、
空に浮かぶキミに向かって、
力いっぱいに叫んだんだ。

防火用水池のほとり


得体の知れないやつ

出た。

気持ちはお察し致します。
いろいろと工夫なさったのでしょう。

でも、ポケモンのキャラにありそうです。
きっと、本当はイイ奴なんです。

両手、両足、股下、口。
キザキザがふんだんに使用されています。
これは前回のライオンにも見られる特徴です。

ひとつ分からないのが、
こめかみ辺りにまとわりついてるミニキャラ。
なんだか愛嬌を感じてしまいます。

よって、
危険訴求度 40/100

貯水池のほとり


ライオン

ライオン=キケンの図式、なるほど。
たしかに危険な感じがします。

特に、目が、
目が恐怖心を煽ります。
あと、牙。

しかしながら、

・伏せの姿勢
・尻尾がなんか嬉しそう

この2点がマイナス。

よって、
危険訴求効果 80/100

ライオン

ときおり、笹の葉ごしに。