※気まぐれに過去ログを上に持って来てみました。
とある小さな郵便局。
局内には、キーボードの音だけがカタカタと響いている。
待合コーナーには老人の男女2人が黙って座っているのみ。
客かどうかは分からない。単なる暇つぶしかもしれない。
田舎によくある、のどかな午後である。
そこへ、サングラスにマスクをした男が音もなく現れる。
よく分からない球団のキャップをかぶりなおしつつ、窓口に立つ。
三本木 いらっしゃませぇ
と、女子局員の三本木のり子、微笑む。
微笑みを保持したまま待つが、男は何も言わない。
痺れを切らした三本木、切り出す。
三本木 本日はどういったご…
男、ジャンパーのポケットからすばやく拳銃を取り出す。
三本木 きゃあああ!
男 騒ぐんじゃねえ!
三本木 きゃああああああ!
男 騒ぐんじゃねえ!
局長の大沼、奥からやってくる。
大沼 どうしたんだ三本木くん!
三本木 きゃああああああ!
大沼 どうしたと言うんだね、三本木くん!
三本木 きゃ、きゃ、きゃあああああああああ!
大沼 ど、ど、どうしたんだあああああああ!
三本木 きゃ、きゅ、局長ぉおおおおおおおお!
大沼 いち、に、三本木くぅううううううん!
男 さ、わ、ぐんじゃねえ!!!!!!!!
男、拳銃の尻でカウンターをドン! と叩く
ピタリと静まり返る局内。
銃口は三本木の眉間に向けられている。
男 金を出せ
三本木 きゃあああ!
男 黙れ馬鹿野郎!
大沼、振り返らずに奥に向かって声をかける。
大沼 小野寺くん、金庫、金庫を開けてくれるか
小野寺 ハ、ハイ!
大沼 しばらく、しばらくお待ちください
男 さっさとしろ!
大沼 小野寺くん、急いで
小野寺 ハ、ハイ!
大沼 早急に用意させますのでっ!
ジリリリリリリリリリリリリリリ!
突如、けたたましくベルが鳴り響く。
男 やりやがったなこの野郎!
大沼 もう逃げられないぞ!
三本木 局長!
大沼、不敵な笑みで背広を脱ぎ、一振りしてまた羽織る。
三本木 なんの意味もないわ!
男 ふざけた真似しやがって
男、待ち合いコーナーの老女を捕まえ、銃口を向ける。
大沼 タヅさんが!
男 ぶっ殺す
三本木 きゃああああ!
男 いちいちうるせえんだよ、このアマ!
大沼 お年寄りになんてことを!
男 なんなら隣の爺さんも仲良くあの世にどうだ?
三本木 違うわ!
大沼 その人は地井さんだ
三本木 地井っていう名字なの
大沼 爺さんじゃないんだよ
地井 あ、はい、地井ですだ
男 んなこと聞いてねえ!
パトカーのサイレンが遠くから聞こえる
男 おまえら全員、壁際に並べ!
暗転
大沼、三本木、小野寺、地井、両手を上げたまま壁際に立っている。
男 こうなった以上、全員に死んでもらう
大沼 そんな……
三本木 やだ、やだやだ
銃口を突きつけられたままのタヅ、ぶるぶると震えだす
タヅ う、う、ううう…
男 ははは、婆さん、死ぬのが怖いか
タヅ 孫に、最後にひと目、孫に会いたいのう
男 悪いがそうは行かねえな
大沼 わ、私には妻と娘と息子がいる、会わせてくれ!
男 ダメだ
三本木 ワタシ、来月、結婚するんです
男 諦めるんだな
地井 畑のキュウリさ水をくれたい!
男 空気読もうぜ、爺さんよ
小野寺 う、う、あう
男 なんだ若いの
小野寺 あの、パ…の、消し…
男 テメエ、はっきりしやがれ!
男、大声で怒鳴りつける。
すると小野寺、シャンと姿勢を正し、キリリとした顔つきになり、
一気にまくしたてる。
小野寺 じ、自分がもしいま死んだとして葬式とかが終わったあと、パソコンのハードディスクに入っている滅相もない画像やけしからん動画を父や母や姉や妹や弟が発見したとしたら、見つけたとしたら、ああ、目にしたとしたら……う、ううう、ううううう
大沼以下全員、呆気にとられた表情で小野寺を見つめている
黙ったままじっと小野寺を見つめる男
男 ……行け
全員 え!?
全員、素っ頓狂な声をあげる。
男 早く行け
小野寺 あ、ああ、ええと
男 オレの気が変わらねえうちに行け!
小野寺 ハ、ハイ!
小野寺が出口に向かって走り出したその瞬間。
男 ちょっと待て!
銃口を向ける男。
小野寺、反射的に両手を挙げる。
全員が息を殺し見守る。
小野寺、恐怖で口をパクパクさせる。
男、少し下げたサングラスの隙間から小野寺を見る
男 ブラウザのお気に入り、消すの忘れんなよ
小野寺 ……ハ、ハイ!!!
「ウィィ」自動ドアが開く音とともに、
パトカーのサイレンが局内にどっと流れ込んできて、
ドアが閉まると同時に、ふたたび静寂が局内を支配し始める。
地井 は、畑のキュウリさ水くれたいんだが……
暗転
終幕