待ち合わせの駅前で、見たくもない天気予報を携帯電話で確認し「なるほど」などと呟くのにももう飽きた。しかし、約束の人物は一向に登場しない。このヒマをどう処理したらよいものかと考えあぐねていたら「リーチ麻雀」の黄色い看板が目に入った。
常々、疑問であった。
大抵の場合において麻雀は「リーチ」を宣言するゲームであり、逆に言えば「リーチ」のない麻雀を私は知らない。にも関わらずわざわざ、「麻雀」に「リーチ」という単語を冠する必要性はどこにあるのだろう。
なぜ、「リーチ」なのか。なぜ、「リーチ」だけにスポットを当てるのか、抜擢されるのか、フィーチャリングするのか、チヤホヤされるのか、赤丸急上昇なのか。どうして「カン」じゃいけないのか。試しに「カン麻雀」と呟いてみた。よく分からない。分からないけどダメっぽい。それならばと「チー麻雀」と呟いてみる。中華の調味料だ。たぶん甘辛い味噌。まさかと思いつつ「チーマージャン」で検索してみると実在した。でも味噌じゃなかった。となると残ったのはあれだけだ。「ポン麻雀」。頭が悪そうである。誰一人として得点計算が出来ない。誰が親なのか誰も把握してない、ただただ牌をガチャガチャかき回してるだけの雀荘。そんなイメージ。
「ポン」という響きが持つ頭の悪そうなエネルギー。
この破壊力はちょっと凄いかもしれない。いや、ちょっとどころではないかもしれない。試しにIQの高そうなものと絡めて呟いてみる。
「中田ポン英寿」
ボールを誰に回したらいいのか判断できなくて「どうする?」って敵に聞くし、何度言ってもボールを手で触ろうとする、とても司令塔とは呼べない。
さらに、多機能OSと絡めて呟いてみよう。
「ウインドウズ ポン」
エクセルの処理がイライラするほど遅いのに、エロサイトのページ読み込みは素早い。ブラインドタッチのスピードに表示が追いついてない。フリーズしたフリをする。
次は、ハイテクなもので呟いてみる。
「ポンIP電話」
声が遅れて届くし、ハイテクの意味をはき違えているらしく勝手にロボット風の音声に変換する。
どんどん呟く。
「ipodポン」
直前の曲を忘れてしまって同じ曲ばかり再生するので、全然シャッフルプレイじゃない。
もひとつ呟く。
「ポン東京大学」
偏差値30、地元ではバカ田大学と呼ばれていて、教授全員、鼻毛が出ている。
日本における大学の最高峰である東大でさえこの有り様。
「ポン」恐るべしである。そしてこのことは大発見であると言って良い。
しかしながら、遅れてきた約束の相手に大発見を得意げに語ったところ、「ポン発見」と一蹴されてしまった。頭に来たので「ポン野郎」となじると、「ポンて言った方がポンなんだぜ」と程度の低い泥仕合を演じる羽目に。店員が「あそこのお客ポン」と囁いているような気がした。酔いが醒めた。