七三日記(0413)


■夜、食器を洗いながら、ものすごくか細くてそして長い、聞き耳を立てなければ聞こえないくらいの屁をしたら、廊下で寝ていた猫がビクッと起き上がってガラス越し、闇夜に向かってニャーと鳴いた。どうやらオレのした屁が、雌猫の鳴き声に聞こえたらしい。■屁で声帯模写、いや違う、これはなんて呼べばいいのか、屁帯模写? 肛門模写? というかそもそも声帯模写とは、声帯「で」模写するのか、声帯「を」模写するのか。そのスタンスが曖昧なまま、安易に「肛門模写」などと呼んでしまっては赤っ恥をかくことになる。しかしインターネットをフル活用しても、その答えは導き出なかった。■猫が風呂場の小窓から先を急ぐようにひゅいっと、弧を描いて出掛けた。雌猫なんていないのに。■会社の先輩Yさんが女の子を紹介してくれるという。ニャー! なんでも前職の知人女性Mさんからの紹介だそうで、図式としては、オレ→Yさん→Mさん→女の子である。■割と近くに住んでいる。愛想がよい。太ってはいないが中肉中背である。はっきり分からないが26歳くらいである。などの情報を得、そこそこにテンションが上がる。■こちらサイドからも、身長170センチ弱・体型スリム、くだらない妄想を内に秘めた35歳。などの情報を提供し、一旦、向こうサイドの反応を待った。付き合うかどうかなんてのは別問題として、一回みんなで飲みいこうか。なんて談笑しながら。■翌日、Yさんは言った。「昨日の子、22歳なんだって。で、35歳はちょっと、だってよ」■おーいカァさん!ちゃぶ台持ってきてー、ひっくり返すから!■誰も悪くない。そう、誰も悪くない。私のために奔走してくれたYさんMさん相手の男が35歳だと聞かされた22歳の女の子。そう、誰も悪くない。一個人のために見せてくれたYさんMさんの素晴らしい連携プレイには頭が下がるばかりだし、自分が女だったとしても干支が一周以上しちゃってる男を押しつけられるなんてまっぴらごめんだし。だから、そう、誰も悪くない。■しかしそうは言ってもやね、切れ味の悪い包丁でギコギコ切られたみたいにオレは傷ついたし、辛くて酸っぱい現実を味わわされてすごく悲しい気分になった。善意×善意イコール無邪気な悪意。■オレはその夜、机の上の小窓に向かって先を急ぐようにぴゅっと、短い放物線を描いた。

待ち合わせ


ちづ子と遊園地へ行く朝
あいにくの大雨であつた
こうなつては取り止めだろう
毛布に包まれていると
「待つています」
ちづ子からのメール
身支度をして家を出ると
雨はすつかり止んでいた

待ち合わせの場所でちづ子は
白磁色のワンピースで
ふくよかな体躯を包み
ずぶ濡れの三つ編みから
真ッ白な湯気をもうもうくゆらせ
バスストツプ 朝靄に佇んでいた

お手玉のようなポーチを下げ
匂い立つように まつすぐに佇む
それは紛れもなく ちづ子であつた

 

あったか灯油


あったか灯油

また揚げ足取りかよと思うかもしれないが敢えて言いたい。このノボリ、気持ちは分かる。分かるけどなんか違う。なんだなんだ?なにが違う? そう、これじゃまるで灯油自体に温度があるかのようではないか。ブリキの湯たんぽや金属のウイスキー入れを小脇に抱えてスタンドに列をなし、満タンになったそれを、ある者は布団に潜らせ「あったかー」と夢心地、ある者は携帯カイロのように懐に忍ばせ「ぬっくぬくやわぁ」と街を闊歩。俺のポテンシャルをなめるな! 灯油が唾を飛ばす。曰く、『あったか。なんてヌルいキャッチじゃ燃えてらんない』のだそうだ。ではどんなキャッチを?と問えば『火だるま灯油。くらいやってくんないと』と口を尖らせる。そりゃそうだろう。燃えることが彼らの人生のすべてなのである。

どんなときも。


マキハラ

えー、みなさん今日はありがとう。本当にありがとう。こんなにね、こんなにたーっくさんの人が来てくれてボクはうれしいし、なによりもこうしてみんなに会えたことにすっっっっごく感動しています。っということで改めまして、秋田のみなさんこんにちわー! 実を言うとというか、なにを隠そうというか、今回のツアーで一番楽しみにしてたのが秋田なんです。いやホント、ホントですよ。なんでかってゆうとほら、秋田って言ったら色白の、そう、秋田美人! 今日のお客様の中にもたくさんいるみたいですけど、たとえば、えー、左から秋田美人・秋田美人・ひとり飛ばして背水の陣~! そんな切羽詰った顔してどうしたんですか?? なーんてウソ。ウソですって。もう一回ちゃんとやらせてください。いいですか? 改めまして左から秋田美人・秋田美人・ひとり飛ばして NPO法人~。 身を粉にして素晴らしい活動をなさって、あ、してない? なさってない? こりゃまた失礼しましたシェー&コマネチ! とまあ冗談はこのくらいにして今回のツアー、いつもより気合が入ってます。ボクの集大成と言っても過言ではないくらいステージングにお金かけてます。だからすごくプレッシャーかかってます。 あのー話変わりますけど、ボクね、ツアーが近くなると必ず見る夢があるんです。それはどんな夢かっていうとね、どこの会場もガラガラ。ガラガラなの。閉店ガラガラーって感じなの。気合入れて準備してたくさんのみんなに聞いて欲しいって思ってるのに誰もいないの。これってすんごっく悲しいことでしょ? だからボク、客席に向かってこう叫んだんです。『いねがーいねがーお客はいねがー! いねがーいねがー泣ぐごはいねがー! いねがーいねがーワインビネガー!』 って・・・あれっ? あっ、あっ。あっ、これ、秋田の鉄板ギャグ、ですよねえ? じゃないんですか? 駅前の飲み屋の大将から聞いだんだげど。ドッガンドッガンだっつって。え? 初めて聞いた? えー? ウッソー! なんだよ~あの大将~! まんまとだまされたわ~。あとで文句言いに行くわ~。ひっぱたいたるわ~。口に色付きゴムボール噛ましたるわ〜。ということで次、最後の曲になります聞いてくださいもう恋なんてしない。

砂漠deダンス


ダチョウ

すいませーん! このなかにキノコに詳しいお客様はいらっしゃませんかー!? あらん限りの声で叫んでも砂漠。広大なサンド・ベージュ。出し抜けに吹き付ける砂埃が眼球をアタック。あうち! 月の毛布をかぶりながらうとうとついばむ夢を見てからというもの、私はこうしてまだ見ぬキノコを探し続けている。美味であった。夢でついばんだキノコはたいそう美味であった。大変おいしゅうございました。目の前をとりどりのカラーがめくるめきながらあっちゃこっちゃと跳ね回れば体も自ずとサルサ&チャチャチャ。やみくもに独舞。乱舞。円舞。こんな自分、初めて! 気がつくと私は砂に首まで埋まってて。どうしたものか。ああ、こんなときキノコがあれば。いや、キノコなら目の前にある。いや、しかし、これは。それは夢とは似ても似つかぬ桃色のキノコであった。すいませーん! このなかにキノコに詳しいお客様はいらっしゃませんかー!? 出し抜けに吹き付ける砂埃が眼球をアタック。どうやら今宵の砂漠は私の知らない砂漠らしい。月だけがいつもように月で、いつものように照らしていた。あうち!